2ー88★外の様子…

『ほら見たことですか!僕は絶対に騙されませんからね!』


フェンの声が先程からとどまるところを知らないといった感じでどんどん大きくなる。


俺は自分の敵意が無いと言うことを彼には示したかったのだが…


『そう言って僕に装備品を渡すと言う建前があれば、貴方は装備品に触れることができますからね?そりゃー、操られている貴方であればそう言いますよ!』


どうやら彼は俺の「装備品を預ける」と言う提案は、彼の中では「俺が自分の装備品に手が触れる口実」に置き換えられてしまったらしい。

もちろん、俺の方としてはそんなつもりなど毛頭無いのだが…

彼が、それだけ俺に対して猜疑心が高まっているということなのだろう。


『いや、ごめん。そんなつもりはないんだ…フェン。気を悪くしないでくれ!今の発言は全面的に俺が悪い』


感情が高ぶっているのが目に見えて分かる。

それだけに、放っておくと次から次に再び叫び出すのではないかと感じたので、俺は先ず変な言い訳をしないで、素直に謝ることに徹した。


一瞬、目を見開くような感じで俺の方に視線を向けた後、彼は深呼吸をするように大きく息をつく。

若干、息の荒さは感じるが大声で捲し立てるようなことはしてこないので、少し落ち着いたのだろう。


ただ、それは今の状態が好転したと言うことを示すのか?

と言われると、恐らくは均衡を保っていると言う方が適切な感じがする。


もしかすると彼が黙った分だけ、ほんの少しではあるが心証が良くなったと考えることもできるが…

とは言っても、その心証と言うのもかなり小さな物だと思う。


それだけに、次の一手が非常に重要な行動というのは分かるんだが…


(んー…、さすがにどうしたら良いのか分からない…)


ただ、黙っていることもできない。


★★★


リエン山、山頂付近にある山小屋の結界の領域内で長い時間、ナカノとフェンは黙っている。

お互いがどうすれば良いのか分からない状況の中で、次の一手を模索している状況なのだが…

当然そんな不安定な状況の中で、どれだけ長く考えようが所詮自分の納得のいく結論というのは出すことはできない。


二人とも…


かといって考えなしに行動して状況を悪化させるわけにはいかないと言うのは同意見である。


ミスを避けたい…

この一点で両者の考えが揃ったとき、いつしかお互いの顔を見合うだけの状況だけが続いていた。


そしてそのまま、いたずらに時間が過ぎていくのだが、この山小屋には二人の他にもう一人が待機している。


元バビロンの王女、フィリア・ヴァン・ユースティティアだ。


彼女はノルドやフェンなどと話し合ったときに、自分が他者に狙われている可能性があると聞かされる。

なので事態の状況が正確に分かるまでは、何があるのか分からないので極力小屋から出るなと言うことは聞かされていた。

これらのことは、もちろん本人も納得したことである。


現に先程、フェンとナカノの両名が外の様子を見に行くと言った時も自分は万が一の事を考えて、大人しく一番安全であると言われた部屋に隠れていたのだが…


『遅いです…。お二人は何をやっているのでしょうか…』


大人しく待っているとは言っても、それは窓の無い部屋の中にいると言うだけの話。

彼女は部屋の中を忙しく行ったり来たりを繰り返しながら、ぶつぶつと小言を繰り返していた。


『先程、出ていってから時はどれ程たったのでしょうか…もうそろそろ日は明けますか?いや、さすがにそれはないでしょうか…でもかなりの時はたっているように感じます…』


腕を組みながら右手の人差し指と中指を落ち着かないといった様子で細かく動かしながら、彼女は独り言を続ける。


『これほど時がたってもお二人が戻ってこないと言うことは、何かあると言うことですか?そういえば…先程、外から叫び声がしたはずです…』


彼女がいるのは所詮山小屋、壁や屋根といった小屋の基本部位は殆どが木で作られている。

そんな状況では、もちろん防音設備などは完璧にできるはずもない。

そして彼女は、そんな状況で先程少しだけ聞こえた叫び声を思い出しながら、再び小言を続けた。


『普通に考えると叫び声があったと言うことは、何か良くない事があったということなのでしょう。ですが今は一切の声がないと言うことであればもう問題は片付いた?いいえ!それであれば小屋に戻ってくるはずです。そして、あの時に聞こえた声をもう一度思い出してみると…恐らくはフェン様…。一体、何があったのでしょうか…』


小屋の中から出るなと言われた彼女。

それは即ち外の様子を気にするなと言うことにも繋がるのは、彼女の方でも重々分かっていた。

とは言っても、今彼女以外の者が動いているのは彼女のためと言うのは彼女自身、非常に感じている。

元々の性格もあり、人を踏み台にしてまで自分が幸せになろうと言う気持ちは無い。

そして、今の状況を考えると外で何かがあったであろうことは想像がつく。

そんな状況で彼女に外を気にするなと言われても、彼女は自分の気持ちを押さえることなどはできなかった。


『ごめんなさい…』


一言だけ呟くと…


まだ小屋にはフェンもナカノも戻ってきていない確信がある彼女は、外で何がどうなっているのかを確かめるために、今いる部屋から出ることを決意した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る