2ー87★悪魔の証明
『とぼけないでください!』
フェンは俺の方を見ながら先程以上の大きな声を出す。
ここまで来ると、さすがに俺でも理解できる。
彼は俺に向けていっている。
それも非常に強い敵意を込めて…
とは言っても彼の中では、俺個人を敵として見なしているというわけではなく、俺が誰かに操られているという認識のようで、その誰かに向けて言っていると言うのが正確なのだろう。
『フェン…』
自分の頭の中では徐々にではあるが状況というのは理解できた。
ただ、理解できたとは言っても、それは解決の道筋に直ぐに結び付くようなものではない。
俺は、目の前で全身から警戒心を溢れんばかりに高めている彼に何と言えば良いのか分からずにいた。
『んー…、今のはどっちが言ったんですか?』
やはりそう。
彼は俺の言葉を疑っている。
ただ、疑っているのは想像できるのだが…
彼は「どっち」と言った。
それは、彼の中では俺の意識もまだあると言う認識なのだろうか?
『なー、フェン。ちょっと聞いてくれないか…』
正直、いつまでもこのままと言うわけにはいかないと思う…
『何を…ですか?』
『うん。このままで良いのかってことなんだけど…』
『このままでと言うのは…それは、このモンスターの群れと言うことでしょうか?』
『そう!だってかん…』
俺がそこまで言うと…
『ほら、来た!やっぱり思った通りです!アタルさん、貴方はやっぱり操られているんですよ!』
フェンがここでも俺の言葉を大声で遮ってきた。
ここで遮られると、困ってしまう…
と言うのか、恐らく彼も自身の中でかなり混乱しているようだ。
彼の言葉の「ほら、来た!」と言うのは俺を操っている対象に向けられる言葉のはず。
そして彼は、その後で「アタルさん、貴方は…」等と言っている。
前後の言葉で話しかけている対象が違う…
普段のフェンなら、こんな分かりにくいしゃべり方はしないはずなので、彼はかなり混乱しているのだろう。
ただ、その事が意味するのは事態の解決方法ではなく、事態の複雑さと言う事になる。
んー…、どうしたらいいのか…
『ちょっと、フェン。冷静になって聞いてくれるか?』
『僕はいつでも冷静ですよ!』
『そうか、それなら。いいんだよ。安心した。それで、先ずは現状の確認からしてもいいか?』
『確認ですか?いいでしょう。いいですよ。ただし、アタルさん!動かないでくださいね!その場で、お願いします。離れるのも僕に近づくのも先ずは無しでお願いします』
さて、ここで困った。
ここまで聞くと、彼の中で俺が操られているのは100%の確率と言わんばかりに感じる。
そして、その詳細が分からない今、彼はかなり警戒心を高めているわけなのだが…
もちろん、俺は今はっきりと自我の意識と言うのを保っているわけで、誰かに操られているということは100%無い。
ただ、先程から聞きたくない声が、どうやら俺だけに聞こえるという怪奇現象のようなこともあったのだが、今現在操られているわけではない。
なので俺の方としては、さっさとそんな話は進めて結界の外にいるモンスターの対策を話し合いたいのだが…
今の彼が、そんな俺の考えにのってくるのか?
と言われたら間違いなくのってこないはずだ。
もし彼を話し合いの場にだすとしたら、それは俺が操られていないことを証明するのが最も手っ取り早い手段なのだが…
自分が操られていない証明?
そんな証明なんてあるのか?
無いものを無いと証明するということ…?
昔興味本意で読んだ本に書いてあった気がする。
それって確か…
悪魔の証明ってヤツなんじゃないだろうか…
んー、こんな事で無駄な時間など使いたくないのだが…
とは言っても、フェンの不信感を拭わないと話は進められない…
と言った感じで考えていると…
『なー、フェン!はっきり聞くぞ!』
『何をですか?』
『お前の中では、俺が操られていると思っているんだよな?』
『……。はい、その通りです』
一瞬黙った後、眉間にシワを寄せ俺を睨み付けるように見て答えた。
その後、首を傾げるようなしぐさを彼はとる。
ん?
何かが納得いってない?
それか、もしかして彼の中で俺が操られていると言うことは半信半疑ということなのか?
『んー、なー。フェン。多分、俺が操られてないって言っても信用してくれないよな?それならこういうのはどうだ?』
『どういうのですか?』
『お前の中で俺を警戒しているというのは、俺が暴れだしたりしないかってことだろ?』
『全部じゃないですけど、それもあります。それで具体的にはどうするんですか?』
『うん。一先ずお前が信じてくれるまで、俺の装備している武器や防具はお前に預けようと思うんだけど…それならどうだ?丸腰の俺が暴れても、武器を装備しているお前なら俺に勝てると思うんだけど…』
俺はハッキリ言って自分の身の潔白を短時間で証明するのは無理だと思った。
なので、先ずは俺がフェンに対して敵意はないですよと言う意味を込めて、彼に武器などを渡すのが一番だと思う。
そうすれば彼は優位にたてるわけで、多少なりとも話を聞いてくれると思ったのだが…
彼の反応と言うのは、俺が想像していたものとは全く違うものだった。
『ふざけないでください!僕は言いましたよね!動くなと!』
彼は護身用の剣を抜き身構える。
そして今日一番の大音量に今日一番の敵意を俺に向けてきた。
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