2ー51★聖杯の条件

みんなの協力で俺が原因となった大惨事を切り抜けた後、俺たちは再び夕食を作ることにした。

とは言っても、全員腹が減っているので、それほど時間はかけたくない。

なので、今度の夕飯は簡単に準備が出来るものが中心となった。


『それでは、どうやら落ち着いたので話の続きをしていきたいと思います』


ノルドが全員を見ながら声をかける。


『はい、先ほどはどうもすいませんでした』

『いいえ、感情が爆発するときと言うのは誰でもあるものですから』


先ほどの俺の行動は、みんなの中では俺がフィリアを助けたいと言う感情が爆発した結果だと思っているのだが…

正直なところ違う…

違うのだが、どうにも周囲の雰囲気を見る限りみんなに誤解をとけずにいた。


『それでノルド、先ほどの話から推測するとフィリアさんが誰かに狙われているとかそんな感じになるのか?』

『結果から言えば、そうなりますね』

『それは宿り子の効果が上手く言ったからとか、そんな感じなんだよな?でも、それってフィリアさんが治った後も狙われる可能性ってあるの?』

神器アークの聖杯を手に入れた人物と呪詛をかけた人物が同一である場合、彼女はいつまでも狙われると思いますよ』

『そこ、なんだよね。なんでノルドは、聖杯と呪詛の人物が一緒と言う前提で話をするのかが分からないんだよね』

『先ず、神器アークというのは種類が複数あるのですが、それを使いこなすためにはいくつかの条件と言うのがあります』

『条件?』

『はい、その条件を満たすために彼女を器がわりにして呪詛を使ったと言う方が正しいと思います』

『その呪詛を受けた結果として彼女は最初、病気になったと言うことなのか…』

『だと思います。そしてその後一度、呪詛をかけた人間が登場します』

『ん?登場?この段階で?』

『はい。見たり自分で何かしら確認しないと次へ進む条件を満たしているのか分からないですから。』

『えっ…、この段階で確認するって…その後、聖杯を手にした者と同一人物ってことは…おいっ…それって…』

『えーっと…ノルド様、フィリア様は、この事知っているのですか?』


全員が持っていた肉を皿の上に置き、顔がいちおうに暗くなった。

恐らく、誰もが最初からその可能性は考えていたはずだ。

だけど、フィリアの話を聞いた限りでは、その人物の可能性はないと思っていた。


『はい、伝えましたよ。今彼女が寝ていて食事の場に現れていないのは、泣き疲れたと言うこともあるのでしょう。ただ同時に私の主観も入っている可能性はあるとも言ってますけどね』


ノルドが何ともないと言う感じに言ってきた。

だが泣き疲れて寝るってことは、結構なことがあったのではと思うのだが…

それに彼の主観も入っているとは言うが、今この場にいる中で最も知識がある人間の意見と言うのは代わりがないはずだ…

この時、もしかしたら最も話しづらい場面を俺は、ノルドに丸投げしてしまったのではないかと思ってしまった。


『なるほど、それで呪詛の効果を確認してフィリアさんが…』

『はい、彼女が呪詛にじゅうぶん蝕まれていると感じたら次の段階ですね。聖杯の奪取を提案します』

『それで見事奪ってきたら聖杯を彼女に使って…?』

『はい、聖杯を使って成功か失敗かを確認するのですが、その成功か失敗かというのは彼女にかけられた呪詛が、どのくらい大きくなっているかによります』

『呪詛が大きい小さいによって、宿り子になるかどうかが決まるってことか?』

『はい、呪詛が大きければ大きいほど強大な宿り子になり、小さければ聖杯の力に負けて消滅していたはずです』

『『『『消滅…』』』』


俺だけではない。

エルメダ、アンテロ、フェンも声が揃った。


『でも、それなら、じゃすぱーだっけ?で元の人間に戻したら、彼女狙われないんじゃないのか?』

『いえ、多分、狙ってくると思いますよ。少なくとも聖杯を使うのであれば』

『えっ…、どうして?他の人に呪詛をかけて、その人に聖杯を使用するとかは?』

『それでは、恐らく呪詛の効果が小さくなるのではないかと思います』

『こんな言い方したくはないんだけど…例えば、片っ端から人をさらって呪詛をかけて手当たり次第に聖杯使ってとか言う可能性もあるんじゃないのか?今現段階で、聖杯は相手の手にあるんだろ?それなら相手も彼女に固執する必要はないよな…』

『ナカノ様の言うような感じで人を集めても、絶対に聖杯を満足させるまで呪詛は大きくはなりません。こう言っては、なんですが今回、聖杯の件は恐らく彼女だから成功したのではないかと思います』

『彼女だから?』

『はい、先程少し話していて感じたのですが、かなり美しく雰囲気も非常に素晴らしいと思います。所作も文句をつけようもないですし、身に付けている衣服も多少汚れてはいますが生地も上等で術式なども組み込まれている貴重なものでした。恐らくですが、他人から多少なりとも人々に認知されていたり注目を浴びたりする場面と言うのがあるのではないかと思います』

『その辺は聞いてないの?』

『はい、一切聞いてません』


(元王女だから多少どころじゃなくて、かなりの人数なんだよね…)


『んー、多少どころか、かなりの人数って言う方が適切だと思うよ』

『なるほど、やはり今回の件は初めから彼女が器になるように仕組まれているように思います』

『えっ?なんで?』

『それは聖杯が餌として認識する呪詛は良心なき快楽レヴィアタンと呼ばれ人々の嫉妬を集める呪詛ただ一つだからです』

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