2ー48★欲の皮が張った二人

『なー、実際のところギーとスパイスの製法って、どのくらいの価値があるの…?』

『えっと…ですね~、それは僕がアタルさんからいくらで買おうとしていたかということですか?』

『あー、そうだね』

『実はですね。正直なところをお話ししますと…そこに僕がフィリア様を何がなんでも助けたいと言う本心がありまして…』


俺の方を見ていたフェンの視線が、気まずそうに下の方を向く。

どうやら、これを説明するために彼はスキルを使用したのかもしれない。


『ん?どういうこと?』

『いえ!ねっ!別に助かってほしくないとかじゃないですよ!そこは誤解しないでくださいね!』

『いや、まー。それは分かるよ…』

『はい、今回の話においてブレッグという者がいるのはご存じですか?』

『あー、確かガルド支店の人だっけ?』

『ガルド支店というか…正確にはミモザ支店ですね…そこで働いているうちの従業員になります』

『あー、ごめん。それで…その人がどうしたの?』

『僕たちが調査に入るまでの間、彼がフィリアに援助をしていたんですよね?と言うことは…彼はバビロンの王家に繋がっているということになります』

『そうだね。直接か間接なのかは知らないけど、コンタクトがとれる可能性はかなり大きいよね』

『はい。まー、もしかしたら彼以外にも僕が知らないところで王家に繋がりがある人物がいるのかもしれませんが、それは今は置いておきます。ここで欲しいのは繋がりという事実だけですから!』


フェンが右手を握りながら力強く言ってきた。


『うん。それで?』

『もしここでフィリア様が宿り子を治療することができた場合、ブレッグにそのことを報告させます。そうすれば、うちの商会は王家に確固たる繋がりと信頼を持つことが出来るはずなんです!』

『あー、なるほどね!確かにそうなるよね。でも…ちょっと待って…』


俺はこの時、ブレッグという男の存在を考えてみた。


彼はバビロンの王家に繋がっている人物のはず。

恐らくバビロンからの資金をもらいながらフィリアに援助を行っているのだろうということが想像できる。


と言うことは…だ…


もし仮にフィリアを完治させた場合の王さまの喜びようと言ったら凄まじいものだと思う!

リスクがあるのも承知なのだろうに、周囲を欺いてまで王女を逃がし影からも支えるほどなのだから…


そうなると…

王さまが出してくれる褒賞金というやつはどれ程の金額になるのだろうか…


俺は咳払いを一つした後にフェンの顔をじっと見た。


『ちょっと聞きたいんだけど、そのフィリアさんが全快したときに俺の名前とかも報告してくれるのかな?』

『勿論ですよ。と言うか…恐らくフィリア様が全快した場合。王の関係者が彼女にどこかで接触する可能性が多いと思います。彼女の性格を考えると…先ずアタルさんの名前は直接出すと思いますよ!それも何度も!』


「何度も!」この言葉が俺の脳裏に何度もこだまする。

そして同時に思った。

彼女の性格であれば、きっと俺の名前を出してくれるだろう。


『えっ…、じゃー、その時、何かしらのご褒美とかは貰えたりするのかな?』

『当然、貰えると思いますよ!それほどのことをしたのであれば…』

『ちなみに…どのくらいだろう…』

『ん~…金額ですか~?ん~…ちょっと想像つかないですよね…なにせ王家ですからね…』


王家…?

やっぱり金持ってるよね…

貿易都市ルートの報酬なんかじゃ、比べられないほどの金額なんだろうな。


『だよね!だよね!そっか!それならフィリア様・・・・・には、何としても宿り子の方は治してもらいたいね!』

『そうですよね!』


俺はフェンと、そう言いながら固い握手をしていた。

この時の俺の顔はどういった顔をしていたのだろうか…

かなり欲にまみれた汚い顔をしていたのではないだろうかと思う。


ハッキリ言ってギーと塩の製法に関する心配なんて、どこかへ消えてしまった。


とは言っても彼女が宿り子の問題を解決して欲しいという気持ちには嘘偽りなどない。

ただ、そこに僅かながら打算的な考えが含まれたのかもしれない。

だが彼女に対しての心配は微塵も変わっていないはずだ…


★★★


フェンとの話し合いが終わり彼がスキルを解くと近くにエルメダがいた。

俺は一瞬、先程の話を聞かれていたのかと心配してしまったのだが…


『もー、話すって…それ、フェンさんのスキルでしょ?そんなの使うほど大層な内容だったの?』

『エルメダさん。どうもすいません。確かに使うほどじゃなかったと思います…ただ外だと風とかが気になると言われたので…』


(すげーフェンって、よくそんな機転きくよな…)


どうやらエルメダの反応を見る限りでは確かに聞かれたとかの心配はないようだ。

以前、ミンネさんが似たようなスキルを使った時、外部に漏れないと言っていた。

あの時は正直、半信半疑だったが今日のエルメダの反応を見てスキルって凄いと改めて実感する。


『へー、そっかー。それでお話し合いはもう終わったんでしょ?食事の準備も終わって、もうみんなも集まってるよ!』

『あー、ごめんエルメダ。腹へったよね。じゃー、中入ってご飯にしようか』

『そうですね。僕もお腹すきましたので、ご飯にしましょう』

『もー、じゃー、はい!行きますよ~!』


若干プリプリ機嫌悪そうな表情を浮かべるエルメダ。

俺とフェンは彼女に手を引かれて、みんなの待つ部屋に連れていかれた。


★★★


ただ俺とフェンは失敗したらと言う話は一切していない…

果たしてこれで大丈夫なのだろうか…

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