2ー47★価値観

『えーっと、取り合えず相談したいことって何?』

『はい。まだ仮の段階で申し訳ないのですが…今回、フィリア様が見事、宿り子の問題を解決できたら…いえ…仮にできなくても…僕にギーとスパイスの製法を売ってくれませんか?』

『……、ん?』


俺はフェンの言ったことの意味がよく理解できなかった。


それは、この世界では塩など特定の調味料をスパイスと呼んでいるからではない。

そんなことはとっくに慣れた。

フェンがいきなり土下座をしたからでもない。


それよりも…

何よりも…


『あっ…、すいません。話が飛びすぎていて僕の言っている意味が分からないですよね?』


フェンが俺の顔色と反応を見て色々と察してくれたようだ!

そう!

彼からの提案は、いきなり過ぎて話の理解が追い付かない。

俺は先ず、詳細の方を聞きたいと思い、彼からの提案に対して無言で首を何度も振っていた。


『アタルさんから仕入れているギーとスパイスはとても好調で…』


(説明、そこ?)


『おいおいおい!フェン、ちょっと待って!』

『はい?』

『ギーが好調と言うのは前から聞いてるよ。以前に孤児院との食事会でもたくさんの人が集まってたし、今度、孤児院の横の空き地で食事屋か何かを個人とフェンのところでやるんだろ?それも聞いてるよ。今回の旅でもガルドのお店に持っていくつもりで、結構準備してるでしょ?うん、確かにギーが好調と言うのも分かるし、スパイスの方も都市のお店とか見ると高いよね。分かるんだけど…それ、今言うことなのか?後でも良くないか?』

『あー…、そうですよね…。ただ、フィリア様のことも今回、絶対逃したくはないので…』


(逃したくない?)


『はい?フィリアさんの事は俺も確かに助けたいけど…それとギーが何で関係するんだ?』

『えーっと、ですね…まだ具体的にノルド様から条件を出されたわけではないので確定事項と言うわけではないのですが…』

『ん?ノルドに教える必要があるってこと?』

『多分、その可能性が高いと僕は考えています』

『なんで?それが…俺の前で地面に座ってまで頼む理由…』


ここまで声を出しふと先程のフェンの言葉が頭を過ってきた…

彼は確か「ノルド様にもきっとご満足いただける内容」と言っていたはずだ。

もしかして彼が言う満足の内容と言うのは、初めからこれのことだったのだろうか。

とすれば彼は俺の許可なく、勝手にギーの製法のことを交渉の手札として見切り発車したことになる。

恐らく、この土下座と言うのは、そういった意味合いが含まれているのだろう。


とは言っても、ここまで来るに辺りフェンにはさんざん世話になった。

そして、彼の実家は貿易都市ルートだけではなく、ガルドにも支店を持つかなり商会のはずだ。

それにどうやら商業系ギルドの方も何やら関係しているようなことを以前聞いた気がした…

もしかしたら近くの他の二か国にも支店を持っていたりする可能性だってある。

そう考えると「はい!これで付き合い終了!サヨウナラ」なんてことはできない。

これからもどこかで仲良くニコニコお付き合いしていくのが賢い判断と言えるだろう。

となれば…


『なー、フェン。とりあえず地面に座るって頼んでって言うのはよしてくれないか?別に、そんなことで怒ったりはしないからさ。この体勢だと話しづらいし…とりあえず、最初みたいに石に座り直して話し合わないか?』

『すいません。ありがとうございます』

『なー、フェン。それに俺がノルドだったらギーの作り方なんかで心動かないとは思うんだけど…』

『何故ですか?』

『えっ…だって…』


ここまで口に出した瞬間、頭の中に様々なことが思い浮かんできた。


ギーの製法と言うのは簡単に言うとバターを熱して不純物を取り除くだけ…

なのだが…

これって、それほどのことなのか?


こんなことが、人を救うための対価に見合うのか?

それとも、この考えはタネを知っている俺だから思うことなのか?

もしかしたらタネを知らないフェンの方からするととんでもないことを先走ったと思っているのか?


いや…だとしても…所詮は…

そう思った俺は… 


『いやー、宿り子の問題ってかなり難易度が高い問題だよな?仮に俺がノルドだったとしたらギーの作り方じゃなくて、とんでもない金額とかを要求すると思うんだよね。あっ…でも別に、ノルドがそんなガメツイやつって意味ではないからね』

『それは分かるんですけど…でも多分、金銭の類いを要求するのは、あくまでも僕やアタルさんの価値観ってだけだと思いますよ。』

『えっ…どういうこと?金銭なんて誰でも欲しいでしょ?』

『ノルド様が仮に貿易都市ルートに住んでいれば、アタルさんの言う通りなのだとは思うのですが…』


俺はフェンのこの言葉は聞いて、とっさに周囲を何度も確認した。

そして今、自分達が山小屋にいると言うことを改めて認識する。


『あー…、そっかー。金銭に価値観を見いだしていれば最初からこんな山小屋にはいないってことか…』

『そうです』


そういえばノルドが俺を送り出してくれた時、彼は俺に自由に使えと軍資金をくれた。

あのときの金額が確か…

500000YUN前後の金額だった気がする…

あの時と違い価値観が追い付いてきた今なら分かる。

その金額があれば、それなりの日数遊んで暮らせると言うことが…

そんな金額をホイホイ気軽に他人にやる人物が確かに簡単に金銭で動くとは思えない。


少なくとも俺なら絶対に他人にはやらない。

彼のくれた軍資金は非常に助かったし感謝もしている。


だが、そうであっても…

誰かに「お前も、あの金を見知らぬヤツに渡せるか?」と問われたら…

俺は問いただしたヤツを思いっきり睨み付けて、無言でその場から立ち去ってしまうだろう。

それほどの金額だと思う!


それにあの時、ノルドが断ると言う可能性もあったはず。

フェンの中で、恐らく断ると言う選択肢はなるべく潰してノルドと交渉した方がいいと判断したのだろう。


俺はやっとフェンの言ったことが理解できた気がする。


そして、何となくだが俺の心の中に…

バター熱する方法だけで恩返しになるのならそれもいいかな?

という感情も芽生えていた。

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