2ー42★記憶の擦り合わせ

目が覚めると俺は拠点の中にいた。

まだ多少ボーッとしているが、先ずは現状を確認したい。

そう思った俺は、寝袋から起きて拠点から顔をだす。


『おー、起きたか!もう昼過ぎじゃぞ!』


拠点から顔を出した俺に、アンバーはいつもの調子で声をかけてきた。

昼過ぎってことは…

俺そのまま朝迎えて寝てたのかよ…


『あーっ…すいません。って…俺、昨日…』

『なんだ~、全く覚えとらんのか?気絶したのは覚えておるだろう?』

『あー…、まー…、多少は…』


アンバーが、若干心配そうに俺に声をかけてきた。

俺の最後の記憶は、後頭部に一撃を受けた記憶だったのだが…

アンバーの話からすると、やはりそれで間違いないのだろう。

でも何故、気絶したんだっけ?

と言うか、そもそも誰にやられて気絶したんだ?


俺が気絶した時、俺はフィリアの上に乗っかっていて、エルメダは俺の横にいたはず。


とすると誰からの攻撃で俺は気絶したんだ?

気絶する前の記憶がよく思い出せない…


『それとも…シラを切っているのか…』


気絶する前の記憶を必死に思い出そうとしていると、背後から冷たい声が響いた。

ビックリして振り替えると、蔑むような白い目をしたトーレがいる。


『おい…何だよ!いきなり!』

『いえっ!別に何でもありませんよ。へ・ん・たぁ…あーっ…すいません。ナカノ様』


トーレが明らかに、わざとにしか思えない言い間違いをぶっ込んできた。

本当ならコイツに何か言った方が良いのかもしれない。

だけど皮肉にもトーレの言葉が、俺の気絶前の記憶を呼び覚ましてしまう。


確か間違いとはいえフィリアの着替えを…

そして、その時の記憶が徐々にではあるが蘇ってくる。

蘇れば蘇るほど早めに彼女に謝った方がいいよなと思い、トーレに反論ができなくなってしまった。

だが言われっぱなしも癪なんで、せめてもの抵抗に思いっきり睨み付けてやるのだが…


『なんですか?その目は!?あの後、こっちはこっちで大変だったんですからね!』


えっ…?

こっちはこっちで大変だった?

と言うことは何かがあったと言うことだと思うんだが…

もしかして、それが俺の気絶した原因と関係あるのか?


俺はそう思い周囲を見ると、俺の周りにみんなが集まってきた。


『はい、それではアタルさんも目を覚ましたようなので確認と説明の両方の意味を込めて、もう一度話し合いましょう!』


大きな声でフェンがみんなに呼び掛けている。

どうやらみんなが何か説明してくれるようだと言うのは俺も理解できた。

なので自分の記憶の擦り合わせ作業は、その後でもいいのかなと思い取り合えず俺は周囲を軽く見渡す。


見渡すと約一名、全く知らない男が一人座っているのを見つけた。

腰から首の辺りまでの上半身部分が包帯で覆われている。

一瞬、大怪我なのかな?

とは思ったのだが自力でここまで歩いて俺の近くに座るくらいだから、それほど重症と言うわけではないのだろう。

よく見ると包帯の下で所々が光っているように見える。

血が滲んでいると言うこともないようなので、恐らく手当てか何かを受けているのだろう。


それよりも、その男が誰なのか俺には全く分からない…

少なくとも会話などコミュニケーションをとったなどの記憶は確実にないと言える。

全くもって話した記憶などないなと考えていると、その男は何やら右手を挙げながら俺の方を見ている。


『あー、はい、どうぞ!』

『ありがとうございます。フェン殿。先ずはナカノ殿には色々と説明しなければいけないこともあるかと思いますが、その前に一言。誤解とはいえ、昨日の非礼は申し訳ございませんでした』


男はひれ伏すように座り直すと両手を地面につけ頭を下げた。


それを見て俺は男の行動を全く理解することができない。

昨日の非礼?

何を言ってるんだ、この男は…

???…

頭の中に?が埋め尽くされていく…

本人の中では先ずは謝ることが第一と考えているようだが、そんな事を俺はされたのか?

取り合えず意味が分からない。

怒ればいいのか、喜べばいいのか途方に暮れてしまい、俺はフェンに苦笑いを送るのが精一杯だった。


フェンの方も俺の考えを理解してくれたのだろう。

同じく苦笑いで返してくれる。

そんな何とも言えない微妙な時間が流れる中で、フィリアが割って入るように男の横に座った。


『あっ…、あの…。かっ…彼は…』


彼女が俺に何かを説明をしようとしているが全く伝わってこない。

若干だが顔も赤くしているので、もしかすると不必要に昨日の事を思い出しているのかもしれない。

だとしたら本当に申し訳なく思う。


だけど彼女の言葉では伝わってこないとはいえ、彼女がくると言うことは関係者には違いないはず。

そう思った俺は何となくから想像することは可能だった。

彼女の事を見ながら昨日の事を一つ一つたどっていく。

昨日一日で様々なことがあったと思いながら考えていくと、だんだんと記憶が繋がっていった。


確かフィリアの話の中では国を離れる時、彼女ともう一人男がいたはず。

名前は確か…


『もしかしてグリエルモさんって、貴方ですか?』

『はい。私、フィリア王女の従者を勤めさせていただいております。グリエルモ・ティフォンと申します。以後、お見知り置きくださいませ』


記憶が繋がった瞬間に自然な形で出た言葉に対して、彼は姿勢を正しハッキリとした口調で応えてくれた。

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