2ー29★王女の回想⑮目が覚めるとそこは…

力を使い果たし意識を失った王女。

彼女は、ひどい脱力感と空腹感が襲ってくる中で目を覚ました。

そこは王女が今まで見たことの無い景色が広がるが、自分がどこにいるのかはすぐに認識する。

周囲には誰も確認できない不気味なほど静かな部屋。

わずかな明かりと窓は手の届かないほど高いところにあり正面は鉄格子。

ここは牢屋の中だろうと…


何か分からない金属の鎖で手足を縛られて身動きが制限されている。

鎖の内側を見ると術式が確認できた。

彼女の不思議な力を警戒しての処置ということなのだろう。

とは言っても今さら、何かをしようという気持ちは彼女の中には微塵もない。


自分が何故、このような扱いを受けているのか…

その事を王女は考えるのはやめていた…

いや…

覚悟をしていたという方が正しいのかもしれない。


なので彼女は無駄に騒ぎ立てずに目を前の方に向けた。

牢屋の入り口の方には、パンとスープがある。

宿り子となっても、身動きがとれないとしても腹は減る…


鎖に動きを制限され、芋虫のように這いつくばりながらも彼女は前進を繰り返す。

何度目かの行動を経て目的の場所までたどり着いた時、彼女は食事をのせてある容器に目がいった。

パンとスープ、水の入ったコップだけで量も大したことはない。

だけど、それぞれが入っている皿やコップ、そしてトレーにおいては丁寧に磨かれているのだろう。

それぞれが素晴らしい輝きを放ち、まるで鏡のようではと錯覚を覚えるほどだった。

宿り子とは言え王族でもある自分に気を使っているのだろう。

こんなところに気を使われてもと思いながら彼女はパンをとってみた。

パンをとった皿の横、光を通して何かが見える。

他に何も見るものがない王女は、自分の顔だろうと何気なく目を向けるのだが…

そこには全く知らない顔が映っていた。


髪は白髪、顔には深いシワが幾重にも重ねられている老婆が見える。

全く意図の出来ないものが見えた彼女は、思わず後ろを振り替えった。

だが牢屋の中で後ろを振り返っても誰かがいるはずはない。

彼女は前を向き直し、二三度首をかしげながらパンを頬張る。

そして先程見えた老婆はなんだったのかと、再び目線を皿の方へ向けると…


先程、見えた老婆が再び同じ位置に映っている。

信じられない彼女は、瞬きをしたり目を擦ったりしてみるが、やっぱりいた。

目の前の皿に映る老婆は自分の見間違いなどではない。

確かな事実だ。

だが、ここで彼女は後ろを振り替えると消えてしまうかもしれないと考えた。

そこで老婆の特徴を探るべく、目を老婆の顔から全体へと視野を広げようと考える。


瞳の色は自分と一緒。

そして髪の長さは自分と同じくらいの上腕の下辺りまで伸びている。

ヘアアクセサリーなど特徴となりそうなものは自分同様に見られない。

身に付けているドレスも自分と一緒で…

と思った瞬間、皿を通して映る老婆がパンを食べている様に疑問を抱く…

あれっ…、自分と一緒だぞ?

と…

パンを食べている様だけではない。

身に付けているドレスも一緒だった…

事実を認識しかけた彼女は、怖くなりパンを放り投げた後、皿を再び見やると…

老婆もパンを持っていない。

と言うことは…


そう!

皿に映った老婆というのは彼女自身だったのだ!


この事実に彼女は驚きすぎて声もでない。

何度も何度も周囲を見渡す。

やっぱり誰もいないし何も見当たらない。

他にあるものといったら、食事と明かりくらい。


皿を見ると老婆が膝を折り、小さくなり全身を震わせている。

鬼か何かでも見たのではないかというような恐怖の表情をしていた。

恐らく自分も、このような表情?

と言うか…

これが今の自分の表情なのか…


もう何も考えられない…


誰もいない空間で彼女は暫く感情のままに暴れ続けた…


★★★


どれ程の時がたったのか…

牢屋の隅で一人の老婆が蹲っている。

その老婆は爪が無造作にちぎられた両手を膝にあてがい姿勢を低くしていた。

目は大きく見開きながら、呼吸は大きく乱れてはいない。

何を思っているのか検討もつかない様子を見せているが…

実は彼女の心は整理ができていた…


今の老婆の姿が宿り子となった自分の姿なのだということを…


自分が意識を取り戻したのは牢屋の中というのは彼女は起きてほどなくして認識した。

意識を失う前に自分がやった行動というのを彼女はハッキリ覚えている。


彼女が猪を撃退するために使った力は通常では考えられない力だった。

特に力尽きた兵士や猪を自らの力で再び操る力というのは、まっとうな者には説明が出来ない。

説明できるとしたら禁呪と呼ばれる、今は禁止されている力に魅了された者くらいだろう。

そして彼女は多くの兵士が見ている前で、そのような力を感情の赴くままに行使した。

何も知らない者にとって、あの力をイキナリ見せつけられれば恐怖は免れない。

彼女は自分でも説明できない力を、そう解釈していた。


恐らく自分は異端審問にかけられた上で処刑される…


人として生きていくことを諦めなければいけない。


そんな事実に彼女は、もう無駄な抵抗はしないとばかりに部屋の隅で時間が過ぎるのを待っていた。


誰とも話せない時間…

何もすることがない…

彼女は視線を上に向け窓を見る。

その窓が自身の手では決して届かない位置にあるのを確認するとため息をつき下を向いた。


そんなことの繰り返しだったのだが…


下を向くと何かがある?


えっ…?


いつから?


何?


彼女が気づかない内に誰かが窓から投げ込んだのだろうか…


でも…誰が…??


理由など分からないが見間違いなどではない。

確かにある。

他にすることがない彼女は、何故か置いてある白い小さな物体に興味をもち近づいてみた。

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