2ー12★思考

都市に来たばかりの時に羊皮紙は羊や山羊の皮が材料になっていると聞いた事がある。

動物の皮が材料になっているのであれば食べることはできるのか?

材料ということは他になにか薬とか使っていたり…

目の前で羊皮紙を食べている老婆を見て、そんな余計なことを俺は考えてしまった。


今、彼女が食べている羊皮紙。


食べている様子を見る限りでは決して美味しそうには見えない。

両手で羊皮紙を押さえて必死の形相で首から上全てを使い力を振り絞っているようにさえ見える。

固い薫製を食べたからと言っても、あれほどの顔にはならないはずだ。

俺は食べたことないから予想でしかないが…

かなり固いのだろう!

そして見た感じで美味しいとは間違っても思えない。

薄い塩味さえもついていないのは明らかだ。

都市の屋台で串に刺して売られてなんて…事は見たこともない。

食べても体に良いはずがないだろう。

健康に良かったら記録媒体としては伝えられていないはずだ。

どんなにお腹が減っても俺としては遠慮したい。


最初は、それに呪文とかそんなのが書いてあり読むと魔法が発動するとか思っていた。

アンバーも近づこうとしなかったから、恐らく近い発想だったのではと思う。

だが…

彼女は今、羊皮紙を食べている…


何の為にだ?


まず考えられるのが、攻撃手段として…

食べると自身がパワーアップ?魔法が発動?

それならアンバーが俺よりも早くに行動しているはずだ…

近づけないだけ?

もし仮にそうだとしても逃げるくらいはできるはずだ。


アンバーも何をしているか分からないから行動できない?

とすると…

彼が知らない情報。

俺が老婆を見つけたのは湖のほとりから、その時は俺とトーレ、エイジがいた。

その後、崖まで来て彼女は洞窟を見つけて入っていった…

僅かではあるが老婆に関しては俺の方が知っているのかもしれない。


ん?

洞窟?

どうやって見つけたっけ?

確か懐から羊皮紙を出して入り口を探していたはず。

それって…もしかして、あの羊皮紙か?

と言うことは…あの羊皮紙には洞窟に関しての情報が書いてある可能性が…

確かアンバーは奥の扉を開けられないとか言っていた気がする…


ここで俺は自分の視線を奥の石扉に向けた後、老婆に視線を流す。

すると、それを待っていたかのように彼女の視線も俺の方を向いてお互いの視線が重なった。

彼女は羊皮紙を口に入れ必死にほうばり噛み続ける。

飲み込むことが難儀だという様子は見てとれた。

普通であれば、その様は苦しそうなはず。

だが彼女の表情は実に嬉しそうに見える。

嬉しそうなのか?

いや…どちらかと言うとやりきった表情という方が適切なのかもしれない。


最初から彼女の目的は強引な方法をとりながらでも羊皮紙を処分することだったのか?

もしかすると羊皮紙には、あの石扉を開ける情報でも書いてあったのか?

少なくとも洞窟の入り口については何か書いてあるはず。

であれば、それはこの洞窟の調査に来た俺たちにとっては絶対に止めなければいけないことだ!

最悪の場合、あの羊皮紙の紛失が依頼の失敗に直結する可能性がある!


『おい!止めろぉ~!』


俺はなりふり構わず老婆を止めるべく叫び走り出そうと、前傾姿勢をとり思いっきりダッシュをしたのだが…


『おふぅ~…』


盛大にコケてしまった…

それも何とも無様な声を漏らし、見事なシャチホコポーズのオマケ付きで…

一体何が起きたのか分からない。

走り出そうとした自分だが、次の瞬間には思いっきりコケて腹を打ち付けている。

俺は咳き込みながら状況を確認しようと周りを見るとアンバーが滑り込むような姿勢で俺の右足を掴んでいた。


間違いない!

原因はこいつ!

全くどういった考えで俺の足をとったのか!


『おい!お前!何すんだよ!いてぇ~じゃねぇーかよ!何ふざけてんだよ!ってか…状況分かってんのかよ!』

『すまん!だが、お前こそ今何をしようとした!』


俺は怒りの感情に任せてアンバーを怒鳴り付けた!

正直理由なんて関係ない。

言い合いになるのなんて上等という気持ちだったのだが、返答をしたアンバーの顔は冷静そのものだった。

俺の両肩を掴み揺すりながら、間違っているのはお前の方だろと言わんばかりの表情だ。


『何しようとしたって、決まってんだろ!あれを止めなくちゃいけないだろ?あの羊皮紙…』

『やっぱりか…お前は自分が何をしようとしているのか全くわかっておらん!』

『何が「わかっておらん!」だよ!そっちこそ、今あの羊皮紙奪わねーと、取り返しがつかなくなるかもしれねぇーだろ!』

『羊皮紙などどうでもいい!それよりも自分の身を大切にしろ!お前はお坊っちゃんの友達だろ?悪い…それであれば全力で止めさせてもらう』

『はぁ~?自分の身?どういうことだよ?』


俺にはアンバーの発言の意図が全く分からない。

さっきまで老婆を押さえつけていたヤツが、名前を知った途端に近づくなと言い出す始末。

更に今度は全力で止める発言まで飛び込んできた。

そんなにヤバイ存在なのか?

例え、そうだとしても近づかないでどうするつもりなんだ?

俺は、こっちの世界に来てから諸事情を知らない。

なので依頼の方を優先するべきだという考えしかなかった。


『お前…あの方は、宿り子やどりごだぞ!』


アンバーは一言だけ呟いた。

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