1ー82★不審者
『ナカノ様は先程
俺はトーレに訪ねられたことに全く見に覚えがなかった。
確かに、この都市に来たのは最近で間違いはない。
だが俺が来たのはガルド王国のリエン山というところからだと前に聞いたことがある。
『いや、俺はガルド王国の方から来たんでバビロンは関係ないけど…って言うか…バビロンの事件て…何?』
『えっ!!ナカノ様はバビロンのあの事件をご存じないのですか?冗談ですよね!!』
俺の言葉が信じられないというような様子で驚きを露にするトーレ。
俺の方としては、正直に答えたつもりだったのだが…
バビロンの事件というのは内容を知らないとおかしい程の事件なのだろうか?
『いや、ごめんね!その時は山小屋にいて情報とか全く入ってこない状態だったから…』
『結構長いこと情報がない状態だったんですね。その時の行動は一人だったんですか?』
『えっ…山で遭難したときってことかな?その時は一人で、ノルドに保護してもらった形だね…』
『何日くらい遭難してたとか聞いてもいいですか?』
トーレが俺の事に妙に食い付いているように感じた。
ふと見ると目つきも若干鋭い…
その視線は、もしかして俺を怪しんでいるのか?というようにさえ思ってしまう。
『トーレ、どうしたんだい?もし気になることがあるのなら話してくれないか?』
トラボンも彼女の様子が変だと感じたようだ。
『はい、旦那様。詳しく話してもいいのですが…ただ、そうすると…』
何やら彼女はトラボンに耳打ちを始めた。
俺に何か関係あることをいっているのだろうか?
『あー、別に構わないよ。隠すことでもないからね』
トーレの耳打ちを黙って聞いていたトラボンは、話を聞き終わると相づちをしながらそう言った。
『分かりました。ではお話しさせていただきます。ナカノ様、この辺の地理関係は詳しいですか?』
『この辺?都市周辺くらいなら、普段討伐で周回してるからある程度は…後は、リエン山は遭難したくらいだから詳しくはないな。ミモザは名前くらいかな…』
『リエン山で遭難する前はどこにいたのですか?』
(ヤバイ…)
俺は身体中から汗が一気に吹き出る感覚に襲われた。
と言うのも、この質問に対する明確な答えを持っていないからだ。
恐らく、この世界ではない別な世界にいたと言ってもマトモな者なら絶対に信じないだろう。
言葉につまり俺は黙って目線を下に落とした。
『トーレ、もしかしてナカノ様を怪しんでいるのか?』
『怪しんでいるというか…もしかして記憶がないとかなのではないかと思いまして…』
『記憶がないぃ??どういうことだい?』
トーレの返答が予想外のものだ。
俺もトラボンもお互い顔を見合わせてしまった。
だが俺への質問だけに、俺が無言と言うのも変な話に感じる。
『確かに記憶はないな…』
非常に危険な賭けに感じるが、今の俺に口だけでうまく説得できる自信は無い。
俺はトーレの言葉にのることにした。
『いえ…実は前に湖の近くで変なものを見たので、もしかしてナカノ様に関係があるのではないかと思いまして』
『うーん。湖というと…あそこか?』
『はい、別邸から少し行ったところの湖です』
『別邸?』
『あー、すいません。私、ここ以外にもいくつか拠点を持っていましてトーレが言っているのは、その内の一つの事です。場所はリエン山の麓になります』
『えっ…?それで変なものって具体的にはどんなものなの?』
『あって…すいません。変なものというと語弊があるかもしれません。見たのは老婆のような女性を一人だけです』
『なーんだ。老婆?って…湖の近くに老婆がいたって…別に変に思うところがない気がするんだけど…』
『そうですか?モンスターや獣が出現するような場所に老婆が一人って、見るからに怪しい気がします』
トーレの言葉を聞いて俺は確かに不審に思った。
『どんな老婆だったかは分かるかい?』
トラボンも不思議に思ったようで、顎の下に自分の指を当てて考え込むようにトーレに訪ねる。
『髪は不自然なくらいに真っ白でした。身長は遠くから見ただけなのでハッキリとは分かりませんでしたが、どちらかと言うと小さい方に感じました』
『それはトーレと比べても小さい方って意味でいいの?』
『そうですね、私より少し低いかなと思います』
俺の見立てではトーレの身長は155cm位という感じがする。
『後、何か分かることはあるかい?』
『来ていた洋服は随分とボロボロの洋服でした。ですが恐らく生地などはとても上等なものだったかと…手には何かマークのついた袋を持っていたので、どこかの商人と取引をした帰りだった可能性もあります』
『上等な洋服を着ていて、ある程度お金も持っていそうな老婆?それって、さっき俺に言ってたバビロンの事件で避難してきた人達とかじゃないの?』
『『それは絶対に無いです!』』
トーレとトラボンが揃って俺に言ってきた。
バビロンの事件とやらの内容は分からないけど…
そんなに的はずれの意見だったんだろうか。
俺は表面に出さないように心の中で落ち込んだ。
『すいません、ナカノ様。あの事件で避難した者であればリエン山の方へ行く前に位置している
『えっ…そうなの?』
トラボンが間髪入れずに謝罪をし、そのまま理由を言ってくれた。
それにしてもバビロンの事件と言うのは、よっぽどの事件だったのだろう…
『まさか!!嘘だと思っていたんですけど…ナカノ様は本当にバビロンの事件を知らなかったんですね…』
トーレの視線が冷たい…
どうやら俺の不用意な発言が、バビロンの事件を知らなかったという事を裏付けてくれたらしい。
心情としては複雑な気がする。
『トーレ、その老婆が持っていた袋は中に何が入っていたかは分かるかい?』
『残念ながら分かりませんでした。ですが気になったので、気づかれないように老婆の後をつけてみたんですが、その老婆…色々と変なんです…』
トーレがどこか納得のいかないといった表情をしている。
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