1ー81★問題

トラボンは部屋から出ていったかと思うと直ぐに戻ってきた。

手には鍵付きの小さな箱を持っている。


『届け物ですよね?鍵付きってことは貴重品って事ですか…』

『はい、やはり紛失などは気を付けたいので…』

『中身は何が入っているか確認してもいいですか?』

『はい、どうぞ。こちらが鍵です』


トラボンは右ポケットから鍵を取り出して俺に渡してくれた。


『ん?これは…?』


見ると羊皮紙に何か書いてある。

パッと見ると文字のようであり、絵のようでもあり不思議なものに見えた。


『はい、それが神代文字でございます』

『へー~、これが神代文字か~…。え?神代文字?どういうことだ?もしかして思いの指輪をトラボンさんが持っているってことですか?』


トーレが一瞬ピクッとした。


『いいえ、そういうことではありません。ただ、今抱えているお客様の要望で、その神代文字を解読する必要がありまして…』

『なるほど。それでノルドか…とりあえず、危険なことをやらされる心配はなさそうだな』

『それはないですよ』

『ナカノ様…旦那様を、そんな目で見ていたのですか…』


トーレの目が怖い…

さっきまでとは様子が正反対に感じる。


『いや、大丈夫だろうとは思ったんだけどね…少しの間とは言え、ノルドにはお世話になったから迷惑は掛けたくないしね』

『そうなんですか~。だから知っていたんですか』

『まー、そうなんだけど。ただ問題もあるんだよね』

『えっ…、問題ですか?』

『はて…問題ですか?』


トーレとトラボンが不思議そうな顔で一緒に俺を見てきた。


『あー、確かにトラボンさんが考えているように俺は以前、ノルドに世話になったことはあるんだけど…ただ、正確な場所というのは分からないんですよ…かなり大まかな地図くらいしか見なかったですし…』

『えっ…、そうなんですか?』

『はい。世話になったのは山で遭難していたのを助けてもらった時で、まだ冒険者になる前だったんで…』

『あー、なるほど。遭難ですか…その後はどのようにして、ここの都市に来たんですか?』

『えーっと、フェンに連れてきてもらいました』

『あのロスロー商会の三男の方ですね』

『はいそうです。確かミモザでしたっけ?ガルド王国の都市から帰りの途中で拾ってもらった形です』

『フェンさんとは今でもお付き合いはあるのですか?』

『まだそれほど前の事というわけではないですし、それ以外にも多少ですが交流はありますよ』

『それなら今度、フェンさんがミモザに行くときに同行とかはさせてもらえないですか?』

『今の俺と仲間達の力量だと、足を引っ張らないかと不安なんですけど…先日、イレギュラーに当たったばかりですし…と言うか…その事も相談したいなと思っていたんですけど』

『その事というのはどういうことですか?』


俺の疑問はトラボンも予期せぬことだったようだ。

目を丸くするようにコチラを見ている。


『確かトラボンさんはアンテロにも何か話してますよね』

『はい、この前ナカノ様と一緒に来られたときに現状で分かることだけなんですが、彼女の身内の事を話しました』

『それが理由で今回アンテロとパーティを組むことになりました。それで今回の事と今後の事を考えると改めて考え直さないといけない事が山積みになって出てきたんですよ』

『具体的にはどういうことでしょうか?』

『先ず確認したいんですけど、ノルドのところに行くのは期限とかありますか?』

『早い方がいいとは考えていましたが…特に期限というのは考えていませんでした。神代文字の件も依頼主の伝は私だけのようで、期限とかは特にもうけられていませんでした。ナカノ様のパーティは今、何人ですか?』


トラボンの視線が斜め上の方へ向いた。

多分、俺の言いたいことが伝わって心当たりはないかと考えているようだ。


『正確にパーティと呼べるのはアンテロと、もう一人女の子が一人いるだけです。ただ俺も含めて戦闘においては未経験の三人で結成したパーティなので実力的には独り立ちできなくてイーグルっていうパーティにお世話になりながらなんです』

『なるほど…イーグルは確か、都市周辺の見回りを主な役目にしているパーティですね。今回の件も、それでですか…ナカノ様は今後の事については、どのように考えていますか?』


(イーグルって、やっぱ結構有名なんだな…)


『追加メンバーが直ぐにでも欲しいです。それも出来るなら前衛職を出来るようなメンバーだと言うことはありません』

『前衛職ですか…う~ん…それは難しいですね…』


トラボンの職業は奴隷商人というのは前にアンテロ達から聞いたことがある。

ただ、奴隷商人とは言っても戦闘とは縁がないのかと言われるとそうとは限らない。

彼は自分の仕事の内容次第では都市を離れることも多くあるようなことを聞いた。

戦闘が得意ではない商人ならば、都市を離れる度に護衛を雇っているはず。

だから前衛職というものがどれだけ重要な役割なのかは理解できたようだ。

眉間にシワを一気に寄せて考え込んでしまった。


『あのー、すいません…ちょっと宜しいでしょうか…?』


トーレが恐る恐るながら手を挙げた。

多分、何か話があるのだろう事は分かる。

俺は何気なくトラボンの方を見ると、トラボンもまた驚いた表情をしていた。

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