1ー72★指輪

『なるほど、それで従属のリングについて聞きたいということですか…』


アスタロトのことをトラボンに話すのは正直、気が引けた。

だが変に隠して俺の聞きたいことが教えてもらえなくなるのは遠慮したい。

それにアンテロや孤児院の人の話では、どうにも悪い人には思えなかった。

なので、ここは正直に話すことにした。


『はい、そうなんです。何か関係があるのではないかと思って…』

『関係ですか?別に特定のものしか持てないというものではないので、と言うか従属のリングという名前も正式名称ではないですから…』

『正式な名称ではない?はいぃ?どういうことですか?』

『えっ…そのままですよ』


トラボンの言葉に俺の頭の中で疑問符が騒ぎだしている。


『そうですね。分かりやすく例えましょうか…ん~…』


トラボンは顎を右の親指と人差し指でつまむような仕草をとり、考えに耽っているようだ。


数十秒の時が流れて…


『ナカノ様は、旅人ときいたのでご存じがないかもしれませんが、この大陸には様々なことで相手に対して贈り物をする風習があるんです』

『贈り物ですか?どういったことですか?』

『例えばイベント的なことが多いんですけど…』


(イベントで贈り物?クリスマスとか誕生日とか?でも指輪って言うからには…結婚指輪のことか?それならイメージできそう…)


『それが指輪ってことですか?』

『本来は指輪である必要は全くありません。ですが送る方としては様々なことを考えて送ります。相手の無事や成功など、願いを込めて送る内にアクセサリーなど身に付けてもらえるものが主流となり、いつのまにか指輪が多くなっていったのです』

『なぜ指輪が多くなっていったんですか?』

『ナカノ様は、ご自分の指をゆっくりとご覧になられたことはございませんか?』


(はぁ?指を~?)


『すいません。ありません』

『謝る必要はありません。多くの方が、そうだと思いますから。もしよろしければ、その辺りからお話ししたいのですが宜しいでしょうか?』

『それって…従属のトゥリングの話に関係があるんですよね?』

『もちろんです』

『それならお願いします』


トラボンが若干、前のめりになりながら、力強く話し始める。


『元々はモンスターの討伐などが元とは言われていますが定かではありません。ですが例としてはちょうどいいので、モンスターの討伐を例に考え始めてみましょう。人が物事を成し遂げようとする場合、今の自分では及ばないということが多々あります。そんなときはどうすると思いますか?』

『他人と協力をして倒すということですか?』

『それも一つの手段です。ですが、協力できない状況ということも多くあるのが現実です』

『まー、確かにそうかもしれませんね。事前準備なども大切ということですよね?』

『そうです!事前準備です!これは今も昔も全く変わらないことなのです!』

『あー、それは分かります』

『ですが、昔の人というのは、今よりも武器や防具、魔法などが上手に使えたわけではありません。困難の数は今よりも多かったことでしょう。そして、その困難というのは待つ方にも、心配という形で降りかかってきます。もしナカノ様が待つ方であれば、どうしますか?』

『えーっと…もしかして贈り物をする風習って…』

『さすがはナカノ様です!その通りです!そして、贈り物をする方としては、相手などを失いたくはありません。ナカノ様としては、どうしますか?』

『ん?効果の高いマジックアイテムなどを送るとかですか?』

『確かに、それは誰もが考えることだと思います。ですが効果の高いマジックアイテムというのは、今も昔も値段が高く一定以上の割合で手が出せない者が多く出たことでしょう』

『はい』

『そして、手を出せない者も、だからと言って失ってもいい理由とは考えなかったようです。そこからある発見がされたと伝えられています』

『ある発見?』

『送り手の思いというモノを伝える方法です』

『送り手の思いって…』

『人は思いの強さによって、時には実力以上の力が出せると言います。もしこの思いが二人分あれば、その分だけ強くなるのではということです。それから先人達が研究に研究を重ねて、ある結果にたどり着いたとされています』


トラボンが、ここで両の手のひらを俺に指がハッキリと見えるように前のテーブルに広げながら話を続ける。


『人の指には様々な思いをのせることができるのです。例えば、この指、右手の小指は安穏無事の効果が現れると言われています』

『なるほど、俺の故郷でも同じような話ありますよ』

『なんということなのでしょう!ナカノ様の故郷でも同じような言い伝えがあるなんて!ちなみに、どの指がどういった謂れがあるのでしょうか?』


俺は左の薬指を右手で握り込むようにしてトラボンに見せる。


『この指にはめる指輪は結婚指輪と言って夫婦で揃いの指輪をはめて絆を深めるとか、そんな感じです』

『ほうぅ~、何とも興味深い。深く聞きたいのですが…でも聞き出すと話が脱線しそうです』

『ん~、またの機会ということでしょうか!』


(俺の方は結婚指輪について詳しい言い伝えなどは分からないんだよね…)


『そうですね。ちなみに恐らくなのですが、その結婚指輪と言うのは、指輪の正式な名前ではないですよね?』

『え?正式な名前?結婚する時にはめる指輪だから結婚指輪と言うんですけど…指輪の正式名称って…あー!そういうことですか!』

『お分かりいただけたようで何よりです!』

『正式名称って、指輪自体の名前ってことですね』

『はい、そうです。従属のトゥリングの方も、そういう指輪が存在するのではなく、あくまでも儀式の名称ということになります』

『なるほどですね。それは分かりましたけど…従属って奴隷になる思いを相手が受け止める何てことあるんですか?』

『それについては、方法というものがいくつか存在します』


トラボンは、そう言うと態度を今までと一変させてきた。

どうやら彼の話の本題と言うのは、ここからなのかもしれない。

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