1ー63★セオリー

『よーし。これぐらいでいいか!実の方は、やっぱり落ちてきてないね。後は集めたこれに火をつけてしまえば終了だね!』


アスタロトの出現後、ナカノがアスタロトを担当、ソフィアが悪魔の樹デビルツリーを担当することになった。

これは打ち合わせとかではなく、自然のなりゆきだ。

ソフィアがナカノと別行動となった後は、先ず悪魔の樹デビルツリーの状態を確かめた。

歯に繁る実の状態からまだ成熟仕切っていないと考えたソフィアは、一旦悪魔の樹デビルツリーから離れ落ち葉や枯れ木などを周囲から集めることにしたのだ。

悪魔の樹デビルツリーを燃やせば事は終了になる。

だが火炎魔法というのは何にでも火をつけれると自惚れるほどソフィアは自信過剰ではない。

ましてや今回の対象はモンスターだけに直接火をつけようとすれば抵抗される可能性がある。

効率を求めるには枯れ木や落ち葉などに火をつけて一気に燃え上がらせる方が良いと考えたからだ。


ソフィアは杖を両手で持ち自身が集めた即席の可燃材料の方へ向ける。

目を瞑ると同時に杖の先端に魔力を込め、周囲に被害が及ばないように加減をして火炎魔法を放つ。

杖の先端から勢い良く炎が迸り目の前の可燃材料に引火した。 

引火した炎は悪魔の樹デビルツリーを包み込むように一気に大きくなっていく。

悪魔の樹デビルツリーも炎の存在に気づいたのだろう。

自身の根を炎の前に出現させて対処するが全く手だてがないと言った感じだ。


【うわー、凄いなぁ~。もうあんなに広がってるぅ~。簡単に火をつけちゃうんだねぇ~】

『誰だい、って…その声はさっきのガキかい。どこにいるんだい!』

【さーてねぇ~、どこでしょぉぉ~。逃げも隠れもしないので当ててみてくださーいぃ~】


アスタロトの声が自分の耳から直接聞こえるような感じがしない。

ソフィアは不審に思い辺りの気配を探る。

アスタロトの気配が感じられない…

先程、一瞬とはいえ本人と対峙して気配は覚えた。

でも今は感じられないということは…


『アンタ、魔法で声だけ飛ばしてるね。逃げも隠れもしないだって?ふざけんじゃないよ。もう既に逃げた後じゃないのかい』

【これだけで気づくなんてさすがですぅ~!悪魔の樹デビルツリーに対する冷静な対処もバッチリですねぇ~!】

『アンタが魔法を使える余裕があるってことは…アンタの相手をしてたアタシの仲間はどうなってんのさ?』

【あー、おにいさんですかぁ~?連れてくれば良かったのかなぁ~?】

『連れてくれば、ってことはまだ無事で、この辺にいるってことかね』

『多分ですけどねぇ~。もしかしたら何かやらかして、バーン!何てことにもなってるかもしれませんがぁ~』


アスタロトがケラケラと笑いながら言っている。

ソフィアが周囲を見渡す。

一番遠くにいるのはセアラ達の姿。

詳細は確認しづらいが、とりあえずは無事なようだ。

他に見える人影らしきものは見当たらない。

だが仮にアスタロトが挑発を仕掛けるならナカノが死んだと言うはずとソフィアは考えた。

とすれば自身が何かを見落としている可能性もあるはず。

ソフィアは辺りを注意深く見回す。


『あれはなんだい…石で出来たテーブル?それにしちゃ…なんか変だね…』


ソフィアは先程まで絶対に無かったであろうものを見つけた。

手足を綺麗に伸ばしている悪魔の石像ガーゴイル

今いる位置からでは全体が見えない。

遠くから見たソフィアには、テーブルの一部のように見えたのかもしれない。


【テーブルねぇ~。面白い意見だねぇ~。でも、テーブルって上に物を置くと思うんだけどぉ~。今回は下に物を置いたってことになるのかなぁ~】

『下に物を置いた?アンタ何言ってん…』


通常であれば「何言ってんだい」と続くであろうソフィアの言葉が途中で途切れた。

石のテーブルの下には何か見える。

小さい粒?

いや目を凝らしてみると恐らくあれは靴なのではないか…


『えっ…靴?』


ソフィアは思わず出た一言にハッと息を飲んだ。

自分の横を見ると炎が勢いよく燃えている。

その勢いは悪魔の樹デビルツリーに襲いかかっている。

悪魔の樹デビルツリーとは言え所詮は木だ。

根を払っただけでは炎を消すことなど絶対に出来ない。

風が急に変わりさえしなければ、自動的に処理をできるはず。

風が変わらなければ、このまま悪魔の樹デビルツリーを飲み込み、先にある石のテーブルにまで届くだろう。


【キャハハァァァ~、もしかしてぇ~。気づいちゃいましたぁ~】


一呼吸おいてアスタロトが嬉しそうにソフィアに聞いてきた。


『もしかしてアンタ…アタシが火をつけるのを待ってたのかい?』

【植物系モンスターの対処としてはセオリーだしねぇ~。でも思った以上に早い行動でビックリしたよぉ~。間に合ってよかったですぅ~】


ソフィアは自身がつけた炎と石のテーブルとの両方を何度も見た。


『性格がとことんまで腐ってるね…ガキにしてはイタズラが過ぎるよ!』

【あれぇ~、もしかしてぇ~、降参ですかぁ~】

『調子にのってんじゃないよ。いいかい!アンタのその声にツラや姿形!何から何まで全部覚えたからね!全体に忘れないよ!今度あったらタダじゃおかないからね!』

【分かりましたぁー!今度会ったらぁ~!美味しいものご馳走してくださいねぇ~!それでは楽しみにしてますぅ~!】

『ふざけるんじゃないよ!』


全てを察したソフィアは会話の後、アスタロトに対する有らん限りの暴言をはきながら石のテーブルの方へ走り出した。

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