1ー40★待ち構えていたモノ

スルトとフェンの話し合いを切り上げた後、俺はスルトに場所を教えてもらいアンテロが生活している修道院へと向かうことにした。

俺、個人としてもフェンと相談したいことはあったのだが、今はスルトの方を優先させた方がいいと思う。

たしか教えてもらった場所は、この辺だなとか思っていると遠くの方に何やら数個の木箱とかなり大きめな木箱と言うか…大きめの箱の方は洋服ダンスに見えた。

そして、それらを馬車の方へと運ぶ女性が数人いるのだが…

女性のうちの一人に見覚えがあった。

名前は覚えていないんだけど…女司教様と一緒にいた修道女の方だ。

って…そのまま見ていると横にアンテロを見つけてしまった。

向こうも俺に気づいたようで大きく手を振りながらアンテロが近づいてきたのだ。


『ナカノ様、どうもこんにちは。こう言うことは早い方がいいと思いまして、早速ですが引っ越しの準備をしていました』

『こう言うこと??早い方がいい??引っ越し??はい?もう次の住みか決まったんですか??』

『えっ?ナカノ様、何を仰ってるんですか?』


アンテロがキョトンとした表情で俺を見ている。


『だって10日ほどで修道院を去らなければと言って、それから翌日に引っ越しの準備ですよ。次の住居もう決まったんですか?』

『はい?ナカノ様のお家の方に置いていただけるのですよね!昨日の話では、準備も含めて預けてくれと仰ってましたよね?』

『いや…確かに言いましたけど…それは、そういう意味では…って、旅するとか言ってましたけど案外荷物多くないですか?』

『はい、元々私の荷物は着替えが数セット位です。ですが女司教様に今後はナカノ様のお家の方と話しましたら、今は使っていないもので良ければ自由に持っていきなさいと許可をいただきましたもので…』


(許可をいただきましたもので…じゃないだろ!)


『これを全部、俺の家に運ぶと…?』

『はい、昨日一緒に話した部屋の隣の部屋には何も荷物がありませんでしたし…ピッタリなのではないかと思うのですが…』

『というか…』


ここで俺がアンテロの引っ越しについては断ろうと思った瞬間、先日女司教と一緒にいた女性が俺の背後に周り耳打ちをしてきた。


『諦めなさい!アンテロも引けないのよ!』

『はい?』


俺は女性の方へ視線を向けると、そこには歴戦の戦士のごとく強者のオーラを放ち仁王立ちで佇んでいる一人の女性がいた。

反論できるものならしてみなさいと言わんばかりに威圧感を全開にしている。

アンテロの方を見ると、アンテロは明後日の方向を見て俺とは視線を合わせてくれない。

自分の事が話題になっているのはアンテロも分かっているはずだ。

それなのに自分の荷物を馬車へ運び終わると、助手席に座り運転手の人と何やら話を始める始末である。


『アンテロさん、話がまだ終わってないんですけど…』

『話なら、ここは通りなので移動してからの方が…』

『移動って…何処へ??』

『それは勿論、ねぇ!』


アンテロが満面の笑みで俺に微笑みかけてくれた。

あまりの眩しさに普段ならウットリと見とれてしまうところだ。

だが今は状況が状況だけに、簡単に見とれるわけにもいかない。

でも流石にこのまま何もしないと膠着状態が続いてしまうだけなので、どうにかしようと思った矢先、エルメダが修道院の入り口から出てきた。

俺は何とも言えない危険を感じてエルメダから咄嗟に隠れようとしたのだが、あちらにも見つかりエルメダの方から走って寄ってきた。


(んー…、大丈夫なのかなこれ…)


『ナカノさん、こんにちは!アンテロを迎えに来てくれたの?アンテロ、だから言ったの!ナカノさんなら大丈夫だって!』

『はい?えーっと…エルメダが言ったって…』


俺がそこまで言うと女司教様お付きの女性が俺の前に腕を組んで立ち塞がってニヤリと不気味な笑みを浮かべる。

それと同時にアンテロもエルメダの方に駆け寄り俺とエルメダの会話を遮るように入ってきた。


『はい!お嬢様の言う通り、ナカノ様は本当にお優しいです。了解を得たので早速、荷物を馬車の中に積み込まさせていただきました。後はナカノ様のお家に行くだけでございます』


(え?俺、了解してないよ…それに荷物は俺が来る前に馬車に運んでたよね?)


『そっかー、それならもうすぐ日も暮れるから早めに荷物運んじゃいましょう』


そう言うとエルメダは荷台の空いたスペースに、ちょこんと座った。

俺にも自分と同じように座るように手で合図を送ってきた。


『ちょっとー、全然そうじゃないよ!』


俺はこのままじゃ埒があかないと思い、結構大きな声をあげた。

そのまま俺はエルメダとアンテロの方へ詰め寄ったのだが、先程同様に女司教様のお付きの女性が再び俺の前に立ちはだかる。

正直、何度も仁王立ちで行く手を遮られてもと俺も思ってきた。

そして女性は先程のように俺に耳打ちをしてくる。


(これも予想通り!流石にそう何度もね!)


『アンタ、最近この都市に来て初めて職業登録受けたんだってね?実は私はね、みんなと違い修練士から職業受けてるんだよ。それで修練士と修道女の熟練度を両方マスターして今度、上位職を受けることが認められたんだ。どうだ?試してみるかい?』


女性はそう言うとニッコリと笑いながら思いっきり右の上腕を俺に見せ力こぶをアピールしてきた。

修道女の服はゆったり気味なのだが、それでも明らかに力こぶの存在が分かってしまうくらいに見事な筋肉だ。

俺は思わず苦笑いすることしかできない…


(明らかに俺より強そう…って…今度は脅しかよ…)


『試すかい?試さないのかい?』


女性の口調が若干強く大きなものになる。


『いやっ…試すとか、そういうつもりじゃなくて…』

『なんだい?試さないのかい?それじゃー、文句は無しってことだね』

『えっ…?なんで、そうなるんですか…』

『何?やるのかい?』


女性が再び大きな力こぶを作り威嚇してくる。


『いや、文句とかじゃなくてですね…』

『文句じゃなかったら、承諾ってことだろう?それじゃー、お互い無駄話はやめて、アンタは馬車に乗った!』


女性の力は自慢するだけあって、俺なんかでは太刀打ちできない力の持ち主だった…

俺は超強引に馬車に押し込まれてしまうと奥にある木箱の一つに足を結びつけられてしまう。

そんな俺をエルメダは横で見ているのだが全く止める気配はない。

それどころかアンテロと運転手に何やら耳打ちをすると馬車が走り出してしまう始末だ。


(もー、みんなグルですか…)


話したいことも何も話せずに行きなりの仕打ち。

もー諦めるしかないのかなと思いながら、俺は無言で馬車に揺られていた。

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