1ー37★トラボンの条件

『トラボン様からは先ずは信頼できる方を探し指定された場所に向かうと言うのが最初の条件です』

『指定された場所??』

『はい、何でも貿易都市ルートからガルド王国の王都ミモザを結んだ途中にあるリエン山という山があるようなのですが、ご存知ですか?』

『あー、はい。そこの山小屋で最初、フェンと会いましたから』

『フェン様と山小屋で…?』


(あれ?俺…何か不味いこと言いましたかね…)


アンテロの表情が若干だが緩んだような気がした。


『はっ…はい…、どっ…どうしました?』

『やはり、ナカノ様は知っていらしたんですね!それにフェン様もですか』

『そこには通常のドワーフと比べて身の丈が1.5倍ほどの大きなドワーフがいませんでしたか?』

『確かにいましたけど…なんでアンテロさんがって…もしかしてトラボンさんがってことですか??』

『はい、そのとおりです。そのドワーフの方が住んでいる山小屋にいくのが最初の条件だと言っていました』

『え?なんで?そこに何かあるんですか?』

『私には分かりませんが、そこに行き事情を話せば協力してくれるはずとだけトラボン様が…』

『そうですか…でもそれだとフェンにも協力をしてもらわないと…』

『そうなのですか?』

『実は俺、そこに行ったことがあると言っても山で遭難してたところに、そのドワーフに助けてもらった感じで、その時はまだ冒険者じゃなかったので詳しい場所とかも分からないですし…』


一度離れたアンテロが俺の側によって来て手を握り、今にも泣き出しそうな顔で大切な教えでも請うようにお願いしてきた。


『厚かましいのは100も承知です。ですがナカノ様の方からフェン様に話をしていただくことは出来ませんか?お願いします!』


俺にこのお願いを断る勇気があれば、どれだけ良かったのだろう。

先程の足にしがみつかれた光景が頭の中に広がった俺には、もはや断るという選択肢は存在しなかった。


『話してはみますけど…あの辺りって結構危険ですし日数もかかるんですけど、行く方法って何か考えあるんですか?』

『頑張ります!』


アンテロは力を込めた表情で頷きながら力強く答えるが、どうにもこの表情が俺には考えなしなのではないかという不安を強く感じてしまうものだった。


『あーっ…とりあえずは分かりましたけど…エルメダの方はどうするんですか?』

『お嬢様の方は今の段階で無理に話を振らなくても良いかなとは思っています』

『え?そうなんですか?なんで?』

『勿論、ナカノ様のパーティの一員ですから、ある程度は話すべきだと思います。暫くは周辺の討伐の仕事ではなく、私からの依頼で行う山小屋に向かう遠征の仕事になると。ですがそこまで話せばじゅうぶんかなと思います。何も私はお嬢様からナカノ様を奪いたいというわけではないのですから』

『なるほど…』


確かにアンテロの言うことも一理ある気はする。

だがアンテロの言い分は卑怯なのではないかという気持ちの方が大きい。


『その後のお嬢様の説得の方は私の方でやっておきますので、フェン様の方はナカノ様の方でお願いします』

『ちょっと色々と問題が生じそうですが…とりあえず話すだけは話しておきますよ。それにアンテロさんからの依頼ってことになると、エルメダには報酬の有無などの話しもしなければいけません。俺には無しでもいいですけど、エルメダには本当にそれで大丈夫ですか?』

『はい、なんとか大丈夫だと思います。お嬢様の扱いは得意ですから』


(得意ってねぇ…)


アンテロの顔が一瞬いたずらっ子のような顔に見えた…


『分かりました。それなら俺がフェンに話す時期なんですけど、これはスルトさんがフェンと話を終えてからにしようと思います。そうなるとと言うのか、これからと言えばいいのか…アンテロさんの住む場所ってあるんですか?』

『一応、修道師の儀式までは修道院の宿舎の方で良いと言われています。』

『それ何日くらいですか?』

『残りは…10日くらいでしょうか…』

『はい?だとすると絶対に無理ですよ!』

『何故でしょう?』


目をパチパチさせて不思議そうに、ジーっと俺の方を見てくる。

普段なら魅力的に思えるんだけど…

話題が話題だけに俺は苦笑いしか出なかった。


『山小屋から貿易都市ルートまでは熟練の冒険者4人で迷わずに移動して2日位なんです。俺とフェン、エルメダの3人だと強さも経験も、そこまで追い付いていません。助っ人を頼むなら金策などの準備が必要になります。修道院勤めのアンテロさんに、そんな財産なんてあるようには思えませんし、俺がフェンと話すのはスルトさんとフェンの話が終わってからになるでしょう。そんな大事な話1日で終わるのか保証もないですし、アンテロさんもエルメダと話す期間なども考えないといけないですし準備が足りなさすぎますよ…』

『でも…どうしたら…』


寂しそうにポツリとアンテロが呟いてきた。


『とりあえず俺はできる限りの協力はします。なので、その辺の準備も含めて一旦は俺に話を預けてくれませんか?』


アンテロが俺の顔を見上げてパーっと明るい表情になった。

多分何も考えていないのだろう。

俺の方としても、大なり小なり自分が関わる話だけに無計画のアンテロにこれ以上任せるのは取り返しのつかないことになる恐れがある。

それならということで全部自分で考えてみることにした。

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