1ー33★職業の発生条件

奴隷商人の館でトーレとの会話で衝撃を受けた後、俺はアンテロと一緒に職業登録所の方へ向かっていた。

トラボンの方からアンテロ自身に対する出生の事は多少語られたようだが、カードの件についてはトラボンも見に覚えがないと言っていた。

なので孤児院に戻ってスルトに事情を話す前に、情報について確信がほしいとアンテロから話があった。

俺もカードは必要最小限にしか利用しない。

それであれば職業登録所によって相談した方がよいのではないかと言うことになった。


『『『いらっしゃいませ、ルート職業登録所へようこそ!』』』


職業登録所の扉を開けると、いつものように受付には3人の女性が待ち構えて声を揃えて迎えてくれる。

今回はアンテロの事で相談にきたので、3人の内で誰に相談をすれば良いのか分からない。

だが俺はミンネとしかマトモに喋ったことがないので、ミンネにそれとなく相談があると伝える。

ミンネは話を聞くと受付の横にある小部屋の方で待つように言ってきた。

正直なところ俺も同席するか迷った。

だがアンテロの方からは意外なほどにアッサリと了承を得た。


『お待たせしました、アンテロ様、ナカノ様』


ミンネはそう言うとアンテロに1枚の羊皮紙を渡して扉の鍵を閉めた。

鍵を閉めると窓が曇り外が見えなくなり、一切の音も遮断されているように感じる。


『それでアンテロ様のカードの事で相談ということですよね。先ずはカードの内容について把握してもよろしいでしょうか。』


(なんだこれ?不思議な空間だ…)


『小部屋内部にまつわる情報を全てロックさせていただきました。これからアンテロ様が相談されることは、外部に漏れることはありません。』


(なるほど情報漏洩対策ですか)


後は羊皮紙に相談したい内容を書けということらしい。

どうやら人によってはカードの情報を受付であっても見せたくないという人もいるんだとか…

アンテロが相談事項を記入して、ミンネに羊皮紙を渡すと彼女の顔が一気に暗くなった…

いつもの眩しいばかりの笑顔からは想像できない顔だ。


『あのー、アンテロ様…どこでいつ登録したか分からないカードの情報を調べてくれって言うのは、どういうことですか?ご自分のカードなんですよね?』

『ごめんなさい…意味が分からないですよね…物覚えがつく前に職業が登録されていたらしいので…』

『アンテロ様は、この都市の出身ではないということで良いですか?』

『はいそうです』

『その職業を聞いてもいいですか?』

『薬師です』


アンンテロの言葉を聞いてミンネの顔が今度は非常に険しいものとなった。

だが、それは何かを理解したということなのかもしれない。


『アンテロ様は、この都市の出身じゃないということは孤児院出身ですか?答えたくないなら答えないでもいいですけど、種族を聞いてもいいですか?』


『兎人族です…』

『カードに気づいたのはいつですか?』

『能力には200日と少し前くらいだと思います。1年はたってないはずです。その後調べてカードの表示方法を会得したのが20日位前だった気がします』

『私以外に知っている人はいますか?』

『孤児院の関係者で数名と、ナカノ様、トラボン様くらいです』

『それでトラボン様もカードの登録時期や場所については知らないから相談に来たということですか?』

『私を託したのが私の両親ではなく、奴隷商人仲間だったようで…カードについては知らないと言われました。でも自分の意識がない小さな頃から職業カードが作られるなんてことあるんですか?』

『可能性としてはありますよ』

『可能性ですか?』

『職業の発生というのは、その方の人生においての仕事や生活環境というのが関わってきます。例えを出すと…これは憶測なんですけど…ナカノ様は恐らく旅とか結構している生活だったと思いますがいかがでしょうか?』


(俺?旅?日本にいた頃は…会社員なんだけど…って…もしかして転勤族って旅に入るのか???)


『自分では旅が多いか判断できないですけど、たまに仕事場が別の地域になるとかはありましたよ。』

『私たち登録所のスタッフの間では、このような職業のために必要な行動のことを経験値と呼んでいます。アンテロ様の場合は、生まれた時点から薬師に関する経験値がたまりやすい環境だったのではないでしょうか』

『分かりやすく言うと…家で薬とか作っているとかですか?』

『その可能性は非常に高いと思います。ただ、職業が現れないこともあります。あくまでも可能性の問題です』

『カードの登録って職業登録所以外でも行うことはできますか?』

『カードの登録というのは、生活魔法を応用しているとは言っても、その他にも色々と秘匿事項はありますよ。ただ漏洩に対し完全に対策ができているかと言われると、その保証はありません。辞めたスタッフなどもいますから…』

『最後の質問なのですけど…私の出身地って分かりますか?』

『出身地ですか?人間種がベースの亜人のようなのでバビロンの方面なのかなと思いますが…』

『やはりそうですか!ありがとうございます!』


俺の中では正直なところ話の内容は掴めていない。

ただアンテロの中では解決できたらしいようだ。

後は帰るだけかなと思っていたのだが…

ミンネが思いがけないことを言ってきた。

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