1ー30★トラボン

『よし!それではナカノさんの亜人に対する理解も深められたようだし、話を本題に戻すことにしようかのう』

『あっ…そう言えば…そうですね…』


取りあえずはムーブに使う小部屋の方まで移動しようと言うことになったのだが、先程まであれほど笑っていたアンテロの顔が一気に暗くなった…

確かに俺が理解したとしても話の本質が変わっていない。


『それで、アンテロは何故カードの登録を済ませているのだ?』


小部屋に戻り、みなが椅子に腰を掛けるとスルトが最初に喋りだした。


『見に覚えがないことだけに…私もサッパリ分かりません。ラストネームがあるのも知りませんでした。それで私は孤児院の出身ですよね。ということは元々捨て子と言うのは分かっています。それならばトラボン様に相談すれば何か分かるかもと思いまして…』

『え?トラボンって誰ですか…』

『この都市唯一の奴隷商人です』

『あー、あの市場でチラッと見た人ですね。って何で奴隷商人に相談なんですか?』


この都市の細かい事情を知らない俺のためにスルトが再び説明してくれた。


『この孤児院の子供は他所から連れてこられた子供達がほとんどで、最も多く連れてきたのがトラボンなのです。勿論アンテロをつれてきたのもトラボンです。ですが、その時にアンテロと言う名前は教えてくれましたが、カードを登録しているとは思いませんでした』

『えっ??そうなんですか?』

『通常、奴隷や妾になる場合は奴隷商人を通して従属契約を結ばせる場合がほとんどです。前にナカノさんには、奴隷が子供を産んだ場合、子供は関係ないと言ったと思います』

『はい、確かに聞きました』

『ただ、奴隷の主人からすると奴隷の子供を育てるなら、奴隷として育てようとします。奴隷の方がそれを望まない場合、奴隷商人に預けることが多くあるということです』

『なるほど、それでトラボンさんが引き取った子供は、この孤児院で面倒を見ているというわけですか。でもそれだと…アンテロがなんでカードの登録をしているのかというのが…』


市場でチラッと見た限りでは悪役なのかなと思ったのだが、実際はこの都市でも意外に重要な役割を担っているのかもしれない。


『そうなんです…恐らくは何らかの条件があるとは思います。』

『そういうことだったんですね。って…アンテロは、それをトラボンさん?に調べてもらって結果は分かったんですか?』

『多少、腑に落ちない部分もあるようですが、大体は分かったようです』

『ということは…まだ詳しい話は聞いていないということですか?』

『はい、市場で出会った時に詳しい話が聞きたいのであれば、来るようにと言われました』

『アンテロさん、それって俺たちも一緒にいっちゃダメですか?』

『え?なんでですか?』

『いやー、知っちゃいましたから。それに多分、スルトさんを納得させるなら、一緒にトラボンさんの話を聞かせるのが一番良いと思いますけど…』

『確かにそうかもしれませんが…自分も知らない出生の秘密を他人と聞くというのはどうにも…』

『あー、まー、確かにそうかもしれませんね』

『ただ、司祭様にはトラボン様からお話を聞いた後に、必ず詳細を話に来ますという約束はさせていただこうかと思います』

『今日、今から行くのか?』

『はい、そのつもりでございます』

『分かった。では、ナカノさんと一緒に行ってもらい終わったら一緒に戻ってきてもらうということなら了解しよう』

『え?ナカノ様とですか?どうしてでしょうか?』

『お前、先程は逃げようとしたよな…』


スルトの鋭い視線に、アンテロは気まずそうに目線を下にそらしてしまった。


『それはついていくだけ、ってことですよね?トラボンさんとの話をしている間は俺は別室にいて待ってましょうか』

『それであれば…』


アンテロとスルトがお互いの妥協点として、歩み寄ってくれたということであろうか。

何にせよ話を前に進めることができそうだと俺も安心した。


『そしたらトラボンさんの所って、俺は全く知らないのでアンテロさん、道案内お願いしますね』

『はい、あまり遅くなるのも問題ですから、早速まいりましょう』


お互い、そんなことを話ながら俺とアンテロは奴隷商人の元へ向かうことにした。

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