1ー19★市場(その1)
孤児院の横の路地から数十メートルほど歩くと多くの露店が並んでいた。
外は日差しが強く降り注いでいるからだろうか
俺とアンテロ、オマケでついてきたエルメダの3人は、そんな市場を歩いているだけあって様々な角度から声が飛んできた。
『そこの新婚さん、話だけでも聞いておくれよ』
『ちょっと~、おばさん何言ってるんですか?』
『あれ?アンちゃん、いつ子供生まれたの??聞いてないよ~』
『もー、こっちでも!違いますよ~。怒りますよ~』
アンテロは流石に地元の人と言う感じで、市場の面々とは仲良くやっているようだ。
俺の方としても日本にいたときは結婚関係の話なんて全く縁がなかった。
市場の面々としても冗談半分で言っているはず。
もう少しアンテロと市場の面々のやり取りを聞いていても良いかなと思っていたのだが、横のエルメダが若干不機嫌になっていた…
(おっと、そうだ!先ずは情報を集めないと!)
『すいません、この
『あいよー、3つね~。あんがと~、持ってくからそこのテーブルに掛けて待っててよ~』
ビッグダックは都市周辺に出没する獣で、厳密にはモンスターではない。
元々は人間が食用のために都市に持ち込んだ動物で、数が増えすぎて手に終えなくなったことで討伐指定されていると聞いたことがある。
討伐した後に魔素の処理をせずに、その場で解体していたのを何度か見たことがある。
(無責任な話だよな~。いつの世でも悪いのは人間ですか…でも今の俺の飯のタネでもあるんだから皮肉なもんだ)
『3つって、もしかして…』
『そうだ、エルメダとアンテロさんの分もあるぞ!』
『本当ですか?ありがとうございます』
『えっ…それはナカノ様に申し訳ないですよ…私の分は別に…』
『お肉苦手じゃなければ、せっかく頼んだのでアンテロさんも食べてください。』
『はーい、ご注文のビッグダックの串焼き3つになりまーす。修道院に入る前は、たまにうちの肉を食べに来ていたからね。苦手なわけないよ~。それで聞きたいことって何さねぇ?』
3人の会話に割り込むように店前の鉄板で肉を焼いていたおばさんが注文を持ってきた。
皿をテーブルの前に置き俺たちの座っているテーブルの向かいに自分の椅子を持ってきて座った。
一瞬、どこからか
『いやー、実はスパイスのことなんですけど…』
『はー?スパイス?なんだってそんなもの~』
『非常に高価なものだと聞いてですね。どのくらいかなと思いまして…』
『どのくらいと言われても説明が難しいんだけど…』
スルトの話では一般に出回ってないらしいだけに、確かにおばさんの話を聞いて説明が難しいだろうなと思ってしまった。
ただ話をしていくとスパイスについては色々と分かったことがある。
先ず、スパイスは大変貴重なものなので、一般のお店で買い取りや提供というのはしていないらしい。
仕入れの状況などが確保できていない場合、例え手に入れてもお客の反応などを予測すると提供がしづらくなってしまうということだ。
そして自分が安定してスパイスを供給できるとしても小さなお店では、資金を用意できない場合が考えられるので買取りしないのがほとんどらしい。
この市場のように露天などのお店の場合は、商人ギルドに加盟していないお店も多くある。
都市の流通や物価水準の多くは商人ギルドが管理をしている場合がほとんどとなっている。
スパイスの売買を適正価格にて物価を崩さないように取引出来るのであれば、商人ギルドも文句を言わないと思う。
それができないので商人ギルドの圧力が怖くて自分ではやりたくないと言っていた。
だからもしも買い取りを希望するのであれば、それなりに大きな商会などに売り込む方が良いらしい。
俺とおばさんの話の間、エルメダとアンテロは何度も目をパチパチさせながらお互いの顔を見合わせていた。
恐らく理解できないという感じなのだろう…
おばさんとの話が終わり露店を後にするときも
『スゴイデスネー』
『ホントデスネー』
二人で目を点にしながら言っていたのは正直、少し面白かった。
スパイスに関しての話は理解できた。
これは後日、もう少し具体的になってからフェンに相談するのが最も効率的な気がした。
続いて必要な調理器具がいくつか足りないと思い、調理器具を取り扱っているお店はないかとアンテロを呼んでみた。
アンテロが返事をしないので変に思い顔を向けると、じっと一人の男を凝視しているのだ。
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