1ー18★アンテロ

孤児院へ戻ってくると小部屋ではエルメダが一人で本を読んでいた。


『エルメダ、エウラとソフィアの二人はどこへ行った?』

『お母さんは、おばさんが何処かへ連れていっちゃった…』

『全く仕方がないやつだ…と言うことは子供達の他は、ここにいる3人だけか?』

『確かアンテロがいたと思う…』

『なるほど、ではアンテロに任せよう。エルメダ、子供達とアンテロを1階のホールに集めてくれるか?』

『いいけど何するの?』

『みんなにナカノさんの紹介をしようと思ってな』

『って事は、あそこに住むの?ナカノさん!』

『そのつもりだよ、宜しくね!』

『こちらこそ宜しくお願いします。それじゃー、みんな集めにいってきます』


嬉しそうな笑顔をして、エルメダは走って小部屋を出ていった。


『全く本ぐらい片付けていかないと…ナカノさん、お恥ずかしい所を…そんなわけで私達は先にホールへ行っておきましょう』

『分かりました』

  


1階の中央に位置する場所に小学校なんかで言う体育館に当たるような広い空間があった。

恐らく大人でもかなりの人数が入ると思われる。

ホールの隅には、いくつもの木箱が重ねられている。


『あれって、コバクとかガイモジャですよね?コバクはいいとしても、ガイモジャは早くアイテムボックスとかに入れないと芽が出て来る可能性が…』


どうやら支援物資として送られたコバク(小麦)やガイモジャ(ジャガイモ)なんかの品物のように思われた。


『どうやら先程の話の中に出てきたアンテロと言う女性がデポットで持ってきてくれた援助物資だと思います』

『あー、なるほど中身だけ置いていったと言うことですね。では手伝いますので一緒にしまっちゃいましょう』


という会話をスルトと行っていると荷物の後ろの方から大きな声がした。


『司祭様ー!!こちらお届けに来ました!いつもと同じコバクとガイモジャで申し訳ないんですが~。って…あれ?誰か一緒にいらっしゃるんですか?』


(えっ…司祭様?って…もしかして、この人偉いのか…)


スルトが司祭だという意外な事実を知り動揺をしている中で、俺は視線を声の方へ向けた。

髪型はフードに隠れてハッキリとは分からないが恐らくはセミロングくらいで銀髪。

上は前髪の上から約5㎝ほどの白いラインが引かれている黒いフードをかぶり、首の回りと両の腕の周り5㎝ほどが白いラインとなっている以外は上から下まで黒の長袖ワンピースに身を包んでいる女性。

首の辺りから銀のネックレスをつけているのが、白いラインに合わさって実に映えて見える。

そして何より興味を引いたのが、その外見である。

指先はスラッと延びていて、肌は汚れ一つなく透き通るような白さ、異世界に来てからというより日本でもお目にかかったことのないほどの美人がそこにいた。

思わず放心状態となっている俺に茶色い目をクリクリさせて笑顔で喋りかけてきた、


『初めましてアンテロと申します。今は修練士として活動中です。宜しくお願いします』


修練士という聞いたことのないフレーズが飛んできた。

これがなければ俺の放心状態が続いていたかもしれない…


『修練士?』

『こちらは、アタル・ナカノさんという方だ。これからエルメダとパーティを組んでくれることになった。ナカノさん、修練士というのは簡単に言うと修道女になる前の研修期間みたいなものです』

『あー、なるほど…すいません修道院とかの世界の事は慣れてないもので…』

『気にしないでください。ほとんどの人は知らないものです』

『お嬢様も、とうとう念願叶ってパーティ相手が見つかったんですね!おめでとうございます!』

『見つかったとは言っても俺だけなので…』


スルトの言葉の間になんとか自分の平静を取り戻しつつ、保存用のデポットの位置を聞いて3人でガイモジャをデポットにしまっていると子供たちが次第にホールに集まってきた。

皆、帽子やバンダナ・・・・・・・をしているのが印象的だ。

一番最後にエルメダが登場してきて、スルトに子供達を全員集合させたと言ってきた。

俺とスルトとアンテロの3人はホールの一番奥側にある少し段になっている場所に移動をしてスルトが喋りだした。


『みんなーこちらのお方はアタル・ナカノさんです。これから丘の家にも住むこととなりました。』

『アタル・ナカノと言います。エルメダさんとパーティを組むことになったので、みなさんとは顔を会わせる機会もあると思います。その時は宜しくお願いします』


(あれ?亜人種が多いって聞いたんだけど…全く気にならないのは何故なんだ??)


横にいるエルメダがキラキラの笑顔で俺を見てくるのが少し怖い…

この後も若干であるが、スルトの話が続いてホールに集められた子供達は解散となり俺とスルトとアンテロ、エルメダの4人が残った。


『アンテロ、お前は修道院に帰るだけだよな?それなら帰りの時間を少し遅らせて市場を案内してやってくれ』

『分かりました。司祭様』

『なんか、すいません。お手間をとらせちゃって…』

『全然気にしないでください。一人でもご縁が出来るというのは非常に嬉しいことなんです。』


(ご縁って…確かにそうなんですけど…)


アンテロと会話していると、間にいるエルメダが俺とアンテロの手を掴んできた。


『私も一緒に行きますから!』


掴んできた手と同じくらい強い口調で俺にそう言ってきた。


(あれ?エルメダ怒ってる??)


若干よく分からない感情も見えた気がしたが、アンテロと一緒に市場に見に行くことで気分はスッカリ舞い上がっていた。

どうせならアンテロの事は色々と聞いておきたいなどと、どんどん考えが横にずれているのを実感していた。

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