焔の旅〜小梅〜

しゃけ

〜小梅の過去編〜前編

「あたし」として生まれたのは11歳のときだった。


気持ち悪い、吐き気がする

意識が朦朧としていると


「おぉ!これは…今までの実験体で1番だ…!」

「素晴らしい…」


あたしを、見て、みんな、なにを…

背中に違和感を感じる。花…?あたしに花が、生えてる…?

そうはじめてわかったとたん、絶望の縁に追いやられた。

ぶわっと涙が出るのと同時に、足元からたくさんの彼岸花が咲いた。床を貫き、あたしを囲んでいたヒト達に絡まった。


「なっこれはっ!おい!今すぐ実験体を収容しろ!」


その瞬間にあたしは気を失った。


――――――――――――――――――――――

「う…うぇッ…げほっ…」

また、酷い寝起き…と、パッと周りを見ても

白、しろ、シロ…

「なに…ここ…?」

ぼーーっとしていると、隣から透き通るような声で

「ねぇ、大丈夫?」

気分の悪い私を悪化させまいという小さな声だった。

「ん…だ、誰?」

頭を抱えながらムクリと起きあがる。見ると隣は隣だが、透明な壁が彼女と私を挟んでいた。

「わたし、紫陽花。って言っても自分でつけたんだけどね!」

紫陽花をじっと見ると腕や足には濃い青と淡い紫が混じった花が生えていた。上から順に見ていくと…彼女の右脚は太ももで無くなっていた。

「ねぇ、貴方の名前は?」

「あたしは…えっと……。」

おかしい。自分の名前が思い出せない。よく考えてみれば、今までの自分もどんなだったかもわからない。

「そっか…貴方も思い出せないんだね。ごめんね」

「…あんたも記憶がないの?」

「私も思い出せないから、自分で好きな名前を付けたの、だから紫陽花って呼んで?」

紫陽花はニコリと笑い私を見た。

「えーっと…あ、紫陽花、ここは…?あたしたちなんでこんな狭いところに…」

「ここは”多分”…人体実験をしている。そして私たちは…された…方。」

紫陽花の笑顔は徐々に消えてゆき、うつむいている。実験をされた絶望も大きいけれど、きっと私にも紫陽花にも両親がいたはず。けれども思い出すことができない。それはきっと紫陽花も同じだ。

沈黙が数秒間できた後

「そう!貴方も名前がないんでしょ?私が付けてあげる!うーんと、彼岸花と、百合が咲いていて、綺麗で真っ赤な赤色の目……小梅、ちゃんってどうかな?」

小梅。これがあたしの名前。

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