#8 娼婦よりも
ねえ、聞いてよ。
久々にすごい聖女を引き当てたわ。
え? 違う違う。祈りの力は普通よ。
性格がすごいの。でも、男にはものすごーくモテたのよね。
同性からはかなり嫌われてたけれど。
え? わたし?
わたしは別に……好きでも嫌いでもないってところかしら。
ホントだってば!
別に男どもに特別なにかしらの感情を抱いていたわけじゃないからね。
それに、見ているぶんにはまあ……面白いと言えば面白い? というところかしらね。
そうよ。あまりにも見事すぎるというか……逆に清々しさすら感じたわ。
あの男を手玉に取るスキルはどこで身につけたのかしら?
稼ぎ頭の高級娼婦よりもすごいんじゃないかしら?
なにせ――下品な言い方だけど――体を許さずにあれだけ金品を巻き上げられるのは、すごいことだわ。
巻き上げると言っても無理にお願いするんじゃないの。
目の前にお高いネックレスがあるとするでしょう?
するとそれをチラッと見て「すごくキレイですね」って言うのよ。
押しつけがましくないところがポイントね。
本当に心の底からネックレスがキレイだと思っているような声を出すのよ。
すると気のある男はフラフラっとネックレスを買い与えてしまうの。
そうしたらあの子はものすごく喜ぶのよ。
でも最初はそんなそぶりは見せずにむしろ畏れ多いって程度を取るのよね。
そこで男が「いやいや、あなたにこそこのネックレスは似合います」とか言うと、そこではじめて笑顔を弾けさせる。
それで男はメロメロになっちゃうのよね。なんでか。
そうね。普段からそんな様子じゃないのよ、その子。
普段は強欲な様子なんてカケラもなくて、むしろ遠慮しがちな感じね。
慎ましい淑女って感じなのよ。こういうの、清楚系って言うのかしら?
でも宝石なんかを目の前にすると目がキラキラ輝くのよね。
知り合いの侍女なんかは「ギラギラ」って表現していたけれど。そんなあからさまじゃ男は引いちゃう。
そういう点ではなかなか演技力のある子よね。
え? そりゃそうでしょ。あれは天然モノじゃないって。
ぜったい、狙ってやってるわよ。ホントに。
ポイントはやっぱり普段は思慮深くおねだりなんかしない子が、プレゼントされるとすごーく喜んじゃうってところなのかしら?
ああ、そうそう。あの子はもらえるものならなんでも喜んでいるわよ。
心の底からそう思っているかどうかはわからないけれどね。
だから、男どもはどんどん豪華なプレゼントを贈りはじめちゃうのかしらね?
そうね、もらえるものならなんでもとは言ったけれど、さすがに家宝の類いは貰わなかったわよ。
取り巻きの中でも特に熱を上げた男が、家宝の宝飾品を持ち出しちゃったことがあってねー。
そのときは悲しそうな顔をしてどうにかこうにか辞退していたわね。
あとで面倒なことになるとでも思ったのかしら?
それなら、賢い判断だと言えるわ。
そんな感じで引き際はちゃんと見極めてる子だったわね。
そういう賢い子だったから、もしかしたら中にはあえて踊らされてるひともいたかも。
なにせ、ものすごい美少女だったからね。
控え目な性格の美少女って、男の理想のひとつ、みたいなところはあるでしょう?
まあ、世の中にはそういう子も探せばいるんでしょうけれど……あの子の場合は養殖モノだったわね……。
女からすればこんだけキレイで自分の容姿をわかっていないなんてあるかよ! ってなところでしょうけれど。
まあそういうわけで多くの男を手玉に取って、上手いこと手のひらで踊らさせてたわね。
さすがに恋人や婚約者がいる男相手には本気にならないようコントロールしていたフシがあるけれど。
だから、取り巻きの中心は独身貴族や男やもめの貴族商人が多かったわ。
そういう男が相手だから、やっぱり自分から踊っていた男も多かったのかしら?
でも、本気になっちゃった男もまあいたわよね。
だって、極上の美少女だもの。
その時点でとにかくモノにしたい! っていう輩が現れても、おかしくはないわよね。
まあそういうのちょっと暴走しそうな輩は、どうにか取り巻きが牽制していたけれどね。
そういう点から見ても、ホント男の選び方が上手かったわ。
男を見る目があるんでしょうね。それで、それをコントロールするだけの口も頭もある。
でも男どもを独占している状況はどう言いつくろっても白々しくなっちゃうから、同性には猛烈に嫌われてたわあ。
視線を集めるような独身の有閑貴族も混ざっていたからでしょうね。
ひそかに狙っている令嬢なんかは、ハンカチを噛んで悔しがっていたみたい。
え? ……まあねえ。どんな女をチヤホヤしようが、それはヒトの自由だけれどね。
わかっていても相手の女が憎くなる。それが乙女心のむずかしいところなのよ。
……え? 単に自分の思い通りにいかなくて癇癪を起こしているだけだって?
あなたってホント、そういうところは冷めてるわよね。
でも、ま、あの子の目的は男でもチヤホヤされることでもなかったのよね。
さすがに体の関係を求められたら断っていたし、そういうことがあると結構あからさまに距離を置いていたわね。
で、そういうことがあるとことさら男どもはあの子は清楚な淑女なんだと思っていたわ。
まあ、たしかに身が清いという点では清楚と評しても間違いではないんでしょうけれど。
外から見ていたらわかるんだけど、あの子の目的は金品の類いだったってわけ。
それを手に入れてどうするのかはわからないけれど、やっぱり元の世界に帰ってから資産にでもするつもりなのかしら?
……そう。あの子はもう帰ってるのよ。大量の宝飾品といっしょにね。
あまりにも多すぎてトランクが三つも必要だったのは、さすがのわたしもおどろいたわ。
そう! 三つよ。そこそこ大きいトランクいっぱいに宝石やらなんやらを詰め込んで、あの子は元の世界に帰って行ったわ……。
そうね。もうあげちゃったものだからって、一時のお遊びの代金みたいに割り切っている男もいるけれど、「詐欺だ!」って言ってる男もいるわね。
でもしょうがないわよね? プレゼントしたものなんだから、返ってくるわけないでしょうに。
下心があって贈ったけれど、相応のリターンがなかったからって文句を言われても、見苦しいだけよね?
まあ、だから清々しいって言ったのよ。
あそこまで見事に男を手玉に取って見せられちゃうと、じゃあしょうがないわねっていう感想にもなるわよ。
……でも、ああいう子はしばらくはいいからしら。
わたしだって女だもの。
ちょっと、ああいう子はうらやましくなっちゃう。
え? そりゃそうよ。
でも、たまの話ね。
たまに、たまーに、チヤホヤされたいって思っちゃうの!
でも、仕方ないでしょう? 魔女にだって、感情はあるんだから。
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