第75話 ■■■■■■■


     075.


 それは。

 人間でいうならば、ありの巣に悪戯いたずらをするような、そういう程度のものだった。

 蟻が噛みついてきたから、皆殺しにした――というものではなく、蟻の巣そのものを潰してしまうような、歩いている蟻たちの道を塞いでしまうような、そういう無意味で不利益な殺生せっしょうだ。

 生き物は、自分より弱い生き物の生命で遊ぶ。

 人間はもちろんだが、猫だって捕まえてきた虫やねずみを両手で転がしたり胴体を引き千切ったり吐きてたりする。ならば、その虚空の遥か彼方に存在する『何か』は、生命体ということになるのではないだろうか。

 否。

 それは違う。あれが何なのか――そういったことを考えるのは、およそ千年早い。

 

 だが、知性はある。

 考える能力がある。

 知性を持つ、概念。

『何か』。

 それと人類が出会ったとき、人類はこう名づける。


 ■■■■■『■■■■■■■』


 と。


 それの『一撃』は、実に壊滅的だ。

 ひとつの文化圏を木っ端微塵に破壊し尽くすに十全たる威力を持ち合わせている。持っていながらにして滅ぼさないのは、滅ぼす必要がないと判断しているからだ。

 相手にされていない。

 そういう状況だ。だけど、それでも噛みつかれれば、ちょっとした興味から『ちょっかい』を出すことだってあるだろう。

『イン・ザ・フレッシュ』。

 このとき、遥か虚空より放たれた『一撃』はそういうものだ。

 人類が体験することになる、虚空の果てからの『一撃』。

 一度目は宣戦布告に対する『返事』だった。

 そして、もう『一撃』が――来る。


 あらゆる概念を無視して、あらゆる法則を引き裂き、時間や空間、物理や科学に位相など――不可逆的な概念を貫通させながら、降ってくる。


 これを、一度体験した人類は、咄嗟に感じ取った。

 その気配を感じ取った。

「…………っ!」

「…………っ!」

「…………っ!」

「…………っ!」

 それぞれは、『それ』に備える。





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