第48話 牛谷グレイの地下教室 その③


     48.


 県立五條高校に侵入した宇井うい添石そうせき

 彼の起こした行動によって大騒ぎになっている中で、宇井による攻撃を受けた茄子原なすはらあやは、クラスメイトたちに介抱されながら保健室にやってきた。

 不審者の大捜索が開始する中で、保健室で傷の手当を受ける茄子原綾は、『大丈夫です』『みんなありがとう』と、応答しながら内心で考えていた。

 考えて、眉をひそめていた。

(……私の『センサー』から消えた?)

 攻撃を受けてすぐ、『能力』――『リング・リング・ローズ』を用いた『植物の操作』を行った。これによって学校全域に張り巡らされた『植物の根』のような『センサー』。

 精度は決して高くないが、宇井添石と思しき人物の追跡はできていた。

 二階から階段を駆け上がって三階に行った。

 三階の廊下を走っていると思ったら、突然『センサー』から消えた。

(私が病院で見たあの男の『能力』と、さっきの出来事からするに、恐らく影の中に道具を入れることができるとかいうものだろう。ドラえもんで言うところの四次元ポケットみたいに)

『センサー』の存在に気づいて、『植物の根』を切り取ったとか?

 いや、そんなことをすれば、その行為そのものに『センサー』は反応して、茄子原は気づく。

 じゃあ、どうして『センサー』から反応が途絶えたのだろうか。

 どうしても植物の触覚を用いただけの『センサー』だけでは精度に欠ける……。

(何にしても、これはあとで考えることもできる)

(まずは『マザーグース』の仲間と、この出来事を共有しなければ)

 もし、昨日奪い合った『宇宙人』のことで狙ってきたのだとすれば、尚更だ。

(『上』に報告しなければ)

『上』――『マザーグース』の、三人のリーダー。

 茄子原綾は『鎮岩とこなべグループ』の人間なので、この場合は鎮岩こと子に報告しなければならない。


 そして。

 その突如として姿を消した、宇井添石。

 彼の身にいったい何が起きたのか。

 それは――彼のいる『場所』は、どこかの教室のようだった。

 灯りはあるが、なのに窓の外は真っ暗だ。

 真夜中のように……。

「これは、いったい――」


「『レイン・レイン・ゴーアウェイ』」


 背後から声が聞こえた。

 瞬間。宇井の影から刃物が飛び出してきた。宇井はそれを手に取って背後にいる『人物』に対して、刃物を向けた。

「このまま私を、殺さないほうがいい。このまま私を殺せば、一生あなたはここから出ることができない」

 そこにいたのは、少し身長の高い少女だった。

 制服を見る限り、五條高校の生徒で、間違いない。

「私の名前は牛谷うしたにグレイ」

 少女は自己紹介をした。

 そして、端的にこう言った。

「私を助けて」





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