第43話 地球外生命体談義 その③


     43.


「宇宙人といっても、種類はいろいろとあります」

 卯月うづきとしては、あまりこう説明するのが得意ではない。

 しかし、話を振られて、ふたりがこちらの説明を聞かんとしている以上、卯月は話をするしかない。

響木ひびきさんは宇宙人ってどういうのをイメージしていますか?」

「宇宙人って言えば宇宙人でしょ」

 響木も決して説明が得意なわけではない。

 頭の中や自分の常識というものを客観的に伝えるのが苦手なのである。それが、彼女の『能力』――『ザ・ウォール』が『

「ええっと……有名なところで言えば『火星人』ですね。タコみたいに足のたくさんある宇宙人です。あとは全身灰色のグレイとかも有名だと思います。響木さんのイメージする宇宙人はどっちですか?」

「どっちかと言えば、グレイのほうかな。ほかにも映画で出てくるようなグロテスクな、爬虫類みたいなのとかもイメージすると言えば、するかな……」

「一般的には、そういう認識でいいと思います。星井ほしいさんが言いたいのって『宇宙人』という概念についての話だと思うんです」

「どういうこと?」

、という話です。宇宙人って言い方が紛らわしいので、地球外生命体って聞くと、もっとイメージするものが広がると思うんですよ。たとえば、火星の土を調べていたら、そこに見たこともない微生物がいたとすると、それは地球外生命体になるじゃないですか」

「ああ、そういうこと」

 響木は納得したように言う。

「微生物の地球外生命体を、茄子原なすはらたち『マザーグース』が持ち去って、それを宇井うい添石そうせきが追いかけていたって言いたいのね」

「大体そんな感じ」

 小春は頷く。

「ただ地球外生命体を定義するにおいて、その発見された微生物が元々は地球の生物かもしれないという問題があるんです」

「どういうこと?」

「宇宙船だったり宇宙服だったり、何かほかの機材でもいいんですけど、そこに地球上に存在する微生物が付着していたとするじゃないですか。それが、たとえば火星として、火星を探索しているときに火星の土に落ちたとするじゃないですか。その微生物は地球上とは違う環境なので、死滅するわけですけど、もしも……その火星の環境に適応してみせる微生物がいたとして、その適応という進化を繰り返して、火星で生き永らえるようになったとします。それってどっちの生物になるんでしょうか?」

 地球の生物か。

 火星の生物か。

 地球上では起こり得ない進化を遂げたその微生物。

 この場合、その微生物は『どっち』になる?

「外来種の問題みたいなものでね」

 小春が話をする。

「海外で暴れている日本からやってきた外来種も、元を辿れば中国の生物だった、みたいな話だと思うのよ。元を辿れば確かに中国かもしれないが、その生物は日本文化に古くから根付いている、みたいな話」

「生命の起源には、いろんな説があります。中には種が宇宙より飛来して、地球上で進化を遂げて根付いたというものもあります」

「ええっと……」

「有機物と無機物の判断もあくまで人間の価値観です。有機物を『生きている』と定義しているのは人間であって、無機物が『生きていない』と定義しているのも人間です」

「ええっと……ちょっと待って、ちょっと待って」

 響木がストップをかけた。

「これは、そのいったい何の話をしているの?」

「宇宙人はとても小さい可能性があるって話だよ」

 小春が言う。

「地球外生命体対策局なんてものが本当に存在するとして、活動内容として考えられるのは『宇宙人の討伐』か、『宇宙人の回収』だと思うのよ。『討伐』にしても『回収』にしても、目的がどちらかだったとして、たまたまこの町にやってきていた『宇宙人』を発見して『討伐』するために、わざわざやってきた――あるいは『回収』しにやってきた。これが病院での騒動に紐づいているとしたら、いろいろと考えられる」

 小春は、人差し指と中指を立てた。

『①事故か事件で負傷した宇宙人が病院に運び込まれた』

『②事故か事件で負傷した人間から宇宙人が検出された』

「――と考えられる。これで地球外生命体対策局、宇井添石の行動は少しばかり説明のつくものになるが、こうなってくると怪訝なのは茄子原なすはらあや日根ひね尚美なおみの行動だ。どうして宇井添石に追われていたのか。ここで考えられることはふたつある」

 そう言って、薬指と小指を立てた。

『③宇宙人の取り合いになった』

『④既に宇宙人に汚染されていた』

「――だ」

「汚染されていた?」

 響木は小首を傾げる。

「さっき卯月くんが言っていたように、地球外生命体の定義は多岐たきに渡る。卯月くんは微生物を例に出していたけど、もう少しサイズを大きくすれば『虫』だって、宇宙人の対象にもなる。…………宇井添石は、漆川うるしかわ羊歯子しだこを殺している。あの病院から唯一発見されていない日根尚美も、もしかしたら殺されている。茄子原綾にも容赦がなかった」

 星井は、あくまでも響木の言葉や状況から予想して話している。

 実際に見たわけではない。

 現に日根尚美に関しての予想は外している。日根尚美を殺したのは、宇井添石ではなく、茄子原綾である。

「たとえば、寄生虫。『マザーグース』の人間は既に、この寄生虫であり宇宙人である存在に汚染されていて、宇井添石はそれを『討伐』しにきた」

 まあ、少し大袈裟に言ったけどね――と、小春は肩をすくめる。

「いや、あり得ない話でもないわ」

 響木は言う。

「あの連中……『マザーグース』と名乗っている組織だけど、どうやってそんな組織を成立させているのか疑問だったの。ただの仲良しグループにしては、やることが常軌を逸している。ひょっとしたら、小春の言ったように寄生虫に汚染されているというのも、おかしな話だとは思わない……」

「何かに汚染されているっていうのは私も思うけど、自分で言っておいてなんだけど、『マザーグース』と『地球外生命体対策局』の行動は、一致しない。もし、汚染されているのを狙うのなら……わざわざ病院ではなく、学校のほうを。あるいは自宅のほうを狙えばいいはずでしょ?」

「それじゃあ、妥当なところでは『③宇宙人の取り合いになった』ですか」

「だと思う。どうして『マザーグース』が宇宙人を求めているのかわからないけど、そこが一番無難な着地点だと思う」

 卯月も、そこが妥当なところだろうとは思う。

 ついつい好奇心が働くほうに思考を向けてしまうが、ある程度のところで止めておかないと、荒唐無稽なことになってくる。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る