第33話 宇井添石(カスタードパイ) その②


     33.


 その青年の名前は、宇井うい添石そうせきという。

 青年は警備員室の前にいる。

「…………」

 彼の前にはふたつの死体が転がっている。

 ひとつは、首があらぬ方向に向いている死体で、もうひとつは、ついさっき彼が殺した。額に彫刻刀が深々と突き刺さっている。そのほかの外傷としては、身体の至るところから虫がいる。皮膚を喰い破って、肉を抉っている。

 それ以外にも、廊下に警備員室といい、虫だからだ。

 嫌悪感を抱きながらも、死体の片方が『虫を操る能力』であることを、あるいはそれに準ずる『能力』を持った人間であっただろうと推理する。

 監視カメラの映像を眺めながら、病院内で起きている出来事を把握した。

 彫刻刀で死んだほうが、病院内で起きている騒ぎの犯人だろうと推理する。

 これに、何か特別な能力や技術があるわけではない。

 状況を見て、導き出されたというだけである。

「ふむ……」

 監視カメラの映像を切り替えながら見ていく。

 すると、

 人の流れに逆らう人間がいた。

 周りの人間の動き、たとえば看護師などによる避難誘導に従う様子もなく、『何かの目的』を持って行動していると思しき人がいた。

 すべて『なんとなく』だ。

 青年――宇井添石がひと目見て『怪しい』と判断したというだけのことである。

 その『怪しい人物』は、セーラー服を着用している。

「…………」

 更にカメラを操作して、セーラー服の少女の動きを追い駆ける。

 向かう先を推測して行く。

(この先は……ひょっとして、隔離病棟に行こうとしているのか?)

 カチャカチャ、とカメラを操作する。

 どうやら隔離病棟の状況は、ここでは確認できないようだ。

 セーラー服の少女の動向や目的は不明。

「仕方ない、行くか」

 宇井添石は警備員室を出た。

 セーラー服の少女を――いいや、日根ひね尚美なおみを追い駆けるように警備員室を出た。





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