第24話 襲撃者がやってくる。その③


     24.


「すみませーん」

 五條病院三階のナースステーションはエレベータを降りたすぐ目の前にある。漆川うるしがわ羊歯子しだこはナースステーションにいる看護師を呼んだ。

 それに気づいた、二十代ほどの看護師が対応する。

「どうされましたか?」

「友達を探しているんです。美章園びしょうえんとどりって言うんですけど……何日か前に入院したと思うんです」

「美章園さんのお友達? 美章園さんは三〇一号室よ」

 本来ならば入院していることや、どの病室にいるのかは口外してはならない。それは個人情報であり、プライバシーである。

(本当なら主任に確認したいけど)

(いちいち確認していたら怒るしなあ)

 本来ならば、こう案内してはならないのだが……ある程度は臨機応変に、だ。

「ありがとうございます」

 看護師にお礼を言う少女は頭を下げた。

 そのときに、ナースステーションのカウンターで思いっきり顔面をぶつけた。

「ちょっと、大丈夫!」

「大丈夫……大丈夫です」

「鼻血出てるわ」

 看護師は、すぐ手の届くところにあったティッシュを渡す。

「ありがとうございま――」

 受け取ろうとしたときに、鼻血が看護師の手に落ちた。

「す、すみません」

「いいのよ、大丈夫」

 本当なら人の血に素手で触れたくなんかない。

 血に直接触れる危険性は、看護師の資格を取るときに勉強したし、実際に働くようになって、より一層危機感を持つようになった。

(まあ、仕方ない)

 鼻血を拭く漆川羊歯子。

 拭ったティッシュをどうしていいか困っていたので、

「こっちで捨てておくわ」

 とティッシュを受け取った。

「すみません、ありがとうございました」

 鼻にティッシュを詰めた少女は、今度は顔をぶつけないようにお辞儀して案内された部屋のほうに歩いて行った。

「さて」

 仕事に戻ろう。

 と、動いたときだった。

 ふらっとなった。

(あれ?)

(ぼうっとする)

 なんだかぼんやりとする。

 ふとさっきの女の子が顔をぶつけたところを見ると、血が付着していた。

 人間の血は、尋常じゃなく危険な代物である。多くの栄養を身体に巡らせている血だが、

 今でこそ医療は発達しているが、高齢者の多くは注射器を使い回ししていた時代の人間である。他人がどんな病気を持っているのか誰にもわからない。だから、人の血に触れるときは細心の注意を払わなければならない。

(今更ではあるけど)

 使い捨ての手袋をして、血を拭き取る。

 よく見ると、床にも落ちている。

 ぽつぽつと、血が落ちていて、それは廊下にまで続いている。

 ほかの患者が、その血に触れる前に拭き取らなければならない。

 そう行動しようとした辺りで、看護師の意識は曖昧になった。





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