第22話 襲撃者がやってくる。その①


     22.


 時刻は同じくして、午後四時半頃のことである。五條市民病院に、迷いなく堂々と入口から這入ってくる人物がいた。

 その少女はセーラー服を着用していて、黄色のスカーフをしている。

 漆川うるしがわ羊歯子しだこ

 その少女の名前である。

 迷いなく病院の廊下を歩いている彼女は、間違いなく『マザーグース』に所属する人間であって、この病院で起きるのきっかけとなる人物である。


「…………」

 そんな漆川羊歯子が、病院の正面口から這入って行くのを、離れた位置から見ている人物たちが、いた。

「…………漆川、羊歯子」

 ぽつりと呟いた少女、入江いりえひじりは、自転車に跨がっている。ハンドルに肘ひじをついて体重を預けている。

「別に私たちは失敗したわけじゃないのに……『あっち』が動くんですね」

 百数メートル離れた位置にいる漆川に対して、露骨な敵意を向けている。

 そんな彼女の言葉に対して、

『しょうがないでしょう、実際に失敗したようなものだし』

 と日根ひね尚美なおみが返答をした。

 隣で、同じように自転車に跨っている沼野ぬまの成都せいと。彼女の手元にあるスマートフォンは日根尚美に繋がっている。

「人に『汚れ仕事』を押しつけるような真面目ちゃん連中に、果たせるとは思えないですけどね。お高くとまっている連中にできるんですかね。『あの子』なら――茄子原なすはらさんならまだしも漆川羊歯子が出てくるんですね」

『茄子原さん――茄子原なすはらあや。入江ちゃんクラスメイトだよね。あの子、人当たりも成績もいいけど、かなりしている――し過ぎているわね。細かいことが好きじゃないみたいな感じだけど。確かにこういう状況なら、茄子原さんのほうが向いているのかもしれないわね』

 知ったふうな言い方をしている日根だが、決して『その子』――茄子原綾のことを詳しく知っているわけではない。何度か会ったことがある程度だ。

『……入江ちゃん、ほかに誰か姿が見えた?』

「いえ、今のところは漆川だけです」

『そう』

 それこそ名前の挙がっていた茄子原綾とかがいなくて幸いだ。

 茄子原綾の『能力』――『リング・リング・ローズ』は繊細極まりない『能力』だが、当人があまりにもざっくりと使うので、あまりにも無差別だ。

「なんだか、むかつきますよね」

 病院のほうを見ながら、苛立っている様子の入江聖。

鎮岩とこなべグループも、私たちにやらせておいて、最終的には自分たちでやるのって」

『その言い方は適切じゃないわね』

 一応は日根班の班長として、入江をさとす。

『美章園とどりで失敗したのは私たちだし、その後始末でも失敗したのは私たち。だから「上」にいる奴らが、ほかの人間を動かすのは仕方ないと思う』

「じゃあ、日根先輩。私たちにこのまま家に帰れっていうんですか?」

『それもいいわね――でも』

 と、日根尚美は続ける。

『私でもむかつくことはある。具体的に言えば、お高くとまってる「上」の連中が気に入らない』

 だから、ふたりはそこにいて。

 今、私もそっちに向かっている。





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