第20話 入院患者・美章園とどり その②


     20.


「『マザーグース』というものは、いわゆる『仲良しグループ』ね。それがクラスや学年の枠を越えて形成されている。『マザーグース』の標語は『みんな仲良く』であるように、仲良くあるための組織。逆に言えば『仲良くできない奴』を摘発てきはつする構造になっているわ」

 私がされたようにね――と。

 美章園びしょうえんは言った。

「仲良しグループといっても、それの規模が大きくなればなるほど、グループの中で更に仲良しのグループができてくる。次第に『マザーグース』から離れて、そのグループが独立してしまうというのを抑える形に今の形になっているわ」

 その今の形は、ご存じ? と問われたので、三人は首を振った。

「仲良しグループ『マザーグース』内で、更に仲良くなったグループがあるとするじゃない。そのグループの中からひとり、を決めるのよ。何人も班長がいて、その上にリーダーがいるという感じね。その班も三人に決まっているから、それ以上増えづらいし、独立しようにも自分たちは『マザーグース』に所属しているという意識づけがされているから、『マザーグース』の範囲内に留まったままになる。そして班ごとに分けられたことで、ほかの班との馴れ合いみたいなのが収縮して、班同士がお互いに睨み合って、『仲良くできない奴』を摘発する構造になっているのよ」

「そのリーダーって誰なんですか?」

 星井は聞く。

「私らのところのリーダーは樫山かしやま加治姫かじきさんね」

?」

「リーダーは三人いるのよ。リーダーの得手不得手によって、組織って偏ってしまうじゃない。それでいて独裁的になってしまうのを防ぐために三人いる」

 美章園は指を一本立てた。

「まずは、成績優秀な真面目ちゃんの鎮岩とこなべこと子。リーダーと似たように、お勉強が得意な連中が中心になって形成されているグループ」

 美章園は二本目の指を立てた。

「次は、元水泳部エースの牛谷うしたにグレイ。ここは部活動を熱心に頑張っている連中らが中心になって形成されている」

 美章園は三本目の指を立てた。

「最後に、穏やかな樫山加治姫。勉強でも部活動でもない、どちらにも分類されない連中らが中心になって形成されている。私やきみらを襲撃したのは、このグループ傘下に属している日根ひね班によるものだと思うわ」

「わかるんですか?」

「ほかのグループならともかく、同じグループにいる班だからね。少しくらいはわかる。仲良しグループ『マザーグース』はこんなふうにみっつの勢力にわけて、それぞれを睨み合わせて、独裁的にならないようにしている――三権分立なんてふうに呼んでいるのも聞いたことがあるわ」

『みんな仲良く』と宣言しているとは思えない。

 聞いているだけでギスギスしているのが伝わってくる。

「私らのグループはまだマシよ。樫山先輩自体が、結構適当な感じの人だからのびのびさせてもらえているって感じ。私は望月もちづき班にいたけど……私を摘発したのは、鎮岩グループでしょうね」

「鎮岩って、勉強を得意とする生徒が中心のグループよね」

「そう」

 星井ほしいが復唱するように、確認しながら話を進める。

 いっぱい人の名前が出てきて、こんがらがってしまう。

「鎮岩グループの根は、もう一年生にまで拡がっているから、恐らくそこで摘発されたんだろうと思うわ。真面目ちゃんが多いから、律儀に報告したんでしょうね。同じ中学の後輩に……『マザーグース』には注意するようにって言いに行ったんだけど、そのせいね」

 ああ。なるほど。

 卯月うづきは納得した。

 なんとなくわかってはいたけど、先日の放課後、隣の教室で口論になっていたのは、それが理由か。

「ん? それって妙じゃないですか?」

 卯月が言う。

「美章園さんは、穏やかな樫山グループですよね。その美章園さんを摘発したのがお堅い鎮岩グループの生徒だとしたら、?」

「処分をするって話になったんでしょうね、リーダー会議で。『自分のところのグループ内に反逆者がいるんだからやれ』って話になったんでしょう。それで、樫山リーダーは命令をしたんでしょう。だから日根班が動いた」

 話を聞いている限り、その分立しているという各グループのリーダーにも強弱がありそうだ。聞いている感じからするに、鎮岩グループのリーダーが一番幅を利かせているという印象だ。

「でも、その日根班は、失敗した」

 星井は言う。

「美章園先輩を仕留め損なった。その要因となった人物に、今回襲撃を加えた。寧々ねねちゃんから聞いた話によれば、相手は最低でも三人いた」

 電車で移動中に、響木の側で起きていた出来事と卯月が知っていることを、それぞれ情報交換を行った。

「スズメバチを直接操っていた入江いりえひじりという生徒と、途中で現れた沼野ぬまのと名乗る生徒、そして卯月くんに接触してきて電話でふたりに指示をしていたと思われる日根ひね尚美なおみ。この三人による攻撃だとこちらでは考えているけれど……美章園さん、一致する?」

「日根班の人間は三人。日根尚美と、沼野ぬまの成都せいとと、入江聖……この三人で一致する」

 ならば決まりだ。

 今回学校で攻撃を仕掛けてきた人物は明らかになった。

「その三人の行動は、今回も失敗した」

「…………!」

 星井の言葉で、美章園は何か勘づいた。

「……だとすれば」

「そう――お堅い鎮岩グループ、そこの傘下がそろそろ動く。直接ね」





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る