第16話 沼野成都 その①


     16.


卯月うづきくんの安全を確保したよ、寧々ねねちゃん』

 校舎内を歩く響木ひびき寧々ねねの元に電話があった。

 相手は星井ほしい小春こはるからで、さっきお願いした『卯月うづき希太郎 《きたろう》の状況確認』の報告だった。

 どうやらムカデにも襲われていたらしく、懸念していた通りだった。

「ありがとう、小春ちゃん」

 お礼を言って、電話を切る。

 廊下を走っていると、正面からスズメバチが飛んでくる。

(卯月くんのときとは違う……)

(どちらかと言えば、ムカデのときに近い動きだ)

 ということは、どこかで見ているのか。

 周囲を見渡す。ずっと続く廊下に、教室が並んでいて、反対側には窓がある。その窓からは運動場が見える。

 学校内に残っている生徒もほとんどいないようで、人とはすれ違わない。

 どこからかスズメバチが出現して、それをペットボトルの水を使って包み込んで動けなくさせる。

 もう三匹ほど殺している。

 恐らくはスズメバチは、『能力』で静止させてストックしているのだろう。

(だけど、何十匹として持てるような恰好でもなかった)

(流石にそろそろ弾切れのはず)

 とはいえ、ペットボトルの中ももう空っぽだ。

 廊下に並んでいる手洗い場に移動して、水を補充する。


「動くな」


 ペットボトルにキャップをしようとしたときだった。

 低い声で言われた。

 思わず硬直し、首を動かしてそっちを見る。

 追いかけていた上級生と見た目が違う。髪も少し染めていて、目つきが悪い。スカーフの色が黄色いことから、二年生だろうということはわかる。

「ええっと……どちらさま?」

「私は沼野ぬまの。あんたの追いかけている入江いりえの仲間だよ」





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る