第二章『チェリーチェリーブロッサム』

第9話 チェリーチェリーブロッサム その④


     9.


 ずっと違和感はあった。

 倒れている美章園びしょうえんとどりを発見したときのことである。

 事故や病気ではなく、『マザーグース』という集団によるであることはわかった。

 だけど、具体的な手段は不明である。

(恐らくは)

(何かしらの『能力』を使ったのだろう)

 そこまでは想像できているが、その『能力』が何かまでわからない。


 そもそも『能力』という存在に関して、わかっていることはほとんどない。

 生まれつきだったり、ある日突然だったり、その『能力』に目覚めることがあるのだという。卯月うづきが知る限り、小学校や中学校にも『能力』を使う者はいた。

 そして、今のこの状況。

(スズメバチの生態にはあまり詳しくないが、およそ冬以外ならば活動しているというのは知っている)

(活発に活動するのは夏から秋にかけてということも知っている)

 今の状況は、果たしてどうなのだろうか。

 スズメバチの習性による動きとしては、いささか人為的なものを感じる。

 いいや、そう感じているのはスズメバチの動きからではない。

(あのとき)

(倒れている美章園とどりを発見したときだ)

 ずっと違和感はあった。

 倒れている美章園とどりを発見したときに、あることに気づいた。

 口の中で、が動いていることに。

 それが何だったのか。結局のところわからなかった。

 気のせいだろうと思っていたが、その『違和感』を今の状況と合わせて考えると、素直に合致する。

 あのとき、美章園の口の中でうごめいていたものはむしだったのだ。

 だとすれば。

 美章園とどりへの殺人未遂と、今の状況を作っている人物。これが同一人物によるものだと考えることができる。

 つまり。

(この『能力』を使う人物は、人を殺すことに躊躇ためらいのない相手ということだ)

 少しばかり飛躍しているが、実際そうだろう。

 美章園とどりを殺そうとして失敗しているわけだから、失敗していなければ殺していたということだ。

 このスズメバチの『向こう』にいる人物は、人を殺し得るだけの人物ということになる。





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