学都に遊びに来ませんか?(五)

 

 スターゲイザー術者である桃花の部屋はどんなものかとララは思っていたが、他の学生たちが利用する棟の中にあるごく普通の一部屋だった。見えないところでのセキュリティは異なっているのかも知れないが、よくよく考えてみればスターゲイザーの力は学都周辺どこでも変わりなく引き出せるので特別扱いの意味もなさそうだ。


 桃花の部屋は確かに整い片付けられていた。元々の散らかり具合をララは知らないが、本人が言うからには来客に備えてそれなりの努力をしたのだろう。


「そういえば、アカデミーの寮って男女別ですよね」

「うん。そうだけど?」

「私やお姉ちゃんはともかく、ノブヒロさんも泊めるつもりだったんですか?」


 脱いだ上着をハンガーに掛けながら、ララが問うた。


「あー……そこまで考えてなかったかも。まあ、そこは前みたいにゲスト用の宿舎を借りられるか交渉かな。信弘さんには申し訳ないけど」

「まったく、用意周到なモモカさんらしくないですね。寝床も足りてないですし」

「一個のベッドでララちゃんとルルちゃんに挟まれて寝る予定だったもん。足りるよ」

「はあ……」


 ニコニコと話す桃花を見て、本気なのだろうとララにもすぐ察せられた。どうやら、用意周到であることには変わりなかったようだ。


 一緒に風呂に入ろうという桃花の提案を固辞し、それぞれで入浴を済ませてララが寝床へ向かうと先に桃花が待っていた。

 シングルベッドに二人並ぶのは中々に窮屈だ。家ではルルと同じことをしているのに、不思議な気分だった。ルルも来ていたら酷いことになっていだだろう。

 ララが観念しつつ隣で横になると、桃花がクスクスと笑いながらすり寄ってきた。


「なんですか? 早く寝ましょう」

「楽しいんだよ。こうやって友達を家に泊めるの初めてだし」

「アカデミーの友人は?」

「無いなあ。だって、ほとんどの子はすぐ近くに自分の部屋あるんだから泊まる必要ないし。中にはちょっと遠くの家から来てる子もいるけど、泊めるほどのこともないかな。ララちゃんも学院には行ってたんでしょ? 自分の家に友達泊めたり、泊まりに行ったりしたの?」

「いえ、無いですね……」


 ララは昔のことを思いながら言った。王立魔法学院在籍時にも少数ながら友人はいた。しかし、家に招くようなことは無かったし、むしろ招きたくなかったと言ってもいい。社会的なコネクションに有利と判断すれば両親は許諾しただろうが、そんな打算的な目に数少ない友人を晒したくなかった。


「じゃあお泊まりするくらい仲良くなったのは、私が最初だね」

「まあ、そうですね」


 何が面白いのか、桃花がいつまでも隣から顔を見てくるので、ララはなかなか落ち着かなかった。


「アカデミーにも友達は出来てきたけど、一番仲良しだと思うのは今でもララちゃんだな」

「全然会わないのにですか?」

「うん」


 ララがこうして桃花と会うのは、学都での騒動以来だ。顔を合わせた日数など、前回の滞在期間を考えてもたかが知れている。日々一緒に過ごす友達がいるのに、何故そうなるのかとララは思った。


「本気で喧嘩した友達とは、後で親友になるんだよ。日本の漫画に描いてあった」

「はあ……? 日本の漫画とやらが何のことかよく知らないですけど、あの時のモモカさんは本気じゃなかったですよね」

「そういう野暮なツッコミをしないの」


 そう言うと、桃花はララに抱きついてきた。


「ちょっと……!」

「いつもララちゃんがルルちゃんにしてることでしょ? 今日はこのまま寝るもんね」


 それだけを言い残して、桃花は本当に眠ってしまった。窓から差し込む月明かりに照らされ、その寝顔はとても安らかに見えた。

 ガッチリと抱き寄せられて穏やかな寝息を隣に聞きながら、ララは諦めて寝苦しい夜を過ごすのだった。


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