第22話 初夜

 僕が初夜の件を了承すると、倫くんはいきなり僕を横向きに抱き上げた。


「ちょっ、危ないって!」


 僕はどちらかと言えば細身だが、それでもそれなりの体重はあるし、それに今は正服の分の重さもある。


「平気だって。

 拓也をお姫様抱っこするの、2回目だし」

「え……あ、もしかして、歓迎会の時……?」


 僕がこの神社に奉職した日の夜、宮司と2人だけの歓迎会で飲み過ぎて僕が寝てしまって、お姫様抱っこで部屋まで運んでもらったような記憶があった。

 その翌朝、宮司に確認した時には、宮司に僕が持ち上げられるはずがないと言われて自分の勘違いだと納得したが、宮司の正体を知った今では、勘違いではなかったのだとわかる。


「うん、そう。

 あの時の拓也の寝顔、かわいかったな」

「か、かわいくなんかないよ」

「ううん、かわいかったよ。

 あの時だけじゃなくて、付き合い始めてから毎晩見てても飽きないくらいかわいい」


 かわいいなんて言われても嬉しくないはずなのに、僕を見下ろして愛おしげに微笑む倫くんの表情を見てしまうと、倫くんにかわいいと思われるのが嬉しいと思ってしまって困る。


 そうこうしているうちに僕の部屋の前に着くと、ふすまが勝手に開き、畳んであった布団も勝手に敷かれる。

 倫くんがこんなふうに神通力を使うのは毎晩のことなので、今さらもう驚かない。


 倫くんは僕を布団のそばに立たせ、自分の装束を一瞬で脱いで白衣だけになると、僕が着込んでいる正服を1枚ずつ脱がせ始めた。

 着るのは1人では無理でも脱ぐのは自分1人で出来るので、自分でも紐を解こうとしたが、倫くんに止められる。

 どうやら「贈った服を脱がせる」ことにこだわりがあるらしい。

 倫くんが嬉々として装束を脱がせていくのを、僕はいたたまれない思いでじっと待っているしかない。


 袴や足袋まで脱がされて白衣姿になると、倫くんは僕を布団の上に押し倒した。


「前から拓也の白衣を脱がせたいって思ってたんだよ。

 自宅に戻って夕飯食べた後だと、どうしても私服かパジャマになるからさ」

「え、なんで白衣?

 別に脱がせても色っぽくもなんともないのに」


 和装を脱がせたい、というのは男にありがちな欲望なのかもしれないが、神主の場合は和装を脱がせても、その中に上下とも白のインナーを着ているのが普通である。

 インナーと言えばまだ聞こえはいいが、僕が今日着ているのは肌着とかパッチとかいう方がふさわしい、木綿製の色気のないものだ。


「色っぽい色っぽくないの問題じゃなくて、単純に拓也が仕事の時に着てるものを脱がせてみたいってだけ。

 前から拓也が神社で白衣でご奉仕しているのを見て、脱がせたいなあって思ってたんだよ」

「えー、なんかバチあたりだなぁ」

「だって、仕方ないだろ。

 それだけ拓也が魅力的なんだから」


 そんなことを話しながらも、倫くんは僕の白衣の紐を解いている。

 腰を浮かせて倫くんが紐を抜き取るのを協力すると、倫くんは僕に覆いかぶさってきた。


「んっ……」


 キスにも、だいぶ慣れたと思う。

 最初の時はただただ必死でよくわからなかったけれど、今はちゃんとキスで気持ちよくなっていることを自覚できるし、自分だけでなく倫くんも気持ちよくなれるように少しは協力できるようになった。


 倫くんはキスをしながら僕の白衣を左右に割り、インナーをめくってわき腹を撫でてきた。

 くすぐったさと紙一重の快感にビクッと体を震わせると、倫くんはキスを止めて体を起こし、インナーを上までがばっとまくった。


 毎日仕事で白衣を着ている僕には、やっぱりこの間抜けな格好のどこが倫くんを興奮させているのか理解出来ない。

 けれども僕の乳首をいじる倫くんの指と舌が、いつも以上に熱心に動いているから、たぶん倫くんが興奮しているんだろうなということはわかるから、僕も自分自身の性感を高められるように、倫くんの指と舌の動きに集中した。


──────────────────


 事が終わって、達したばかりでちょっとぼーっとしていた僕に、倫くんが触れるだけのキスをした。


「拓也」

「ん?」

「俺と結婚してくれてありがとう。

 あと初夜も」


 初夜だけは余計な気がしたけど、倫くんが僕との結婚式をすごく喜んでくれたことは伝わってきた。

 

「……僕こそありがとう」

「ん、初夜、喜んでもらえたのなら良かったよ」

「そっちじゃなくて!

 その、僕と結婚してくれて、それから僕のことを好きになってくれて、ありがとう」


 僕がそう言うと、倫くんは嬉しそうに微笑んで、僕をぎゅっと抱きしめてきた。

 倫くんの腕の中で彼のぬくもりを感じながら、僕はこの人と結婚できた喜びを──これから先、ずっと共に人生を歩んでいく喜びを感じていた。

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