第18話 初めての

「さてと、話はこれくらいでいいよね」


 そう言うと倫神使は、とんと僕の肩を押した。

 それほど強い力でもなかったのに、僕の体はこてんと後ろに倒れる。

 床にぶつかる!と反射的に衝撃に耐えようとしたが、実際には衝撃はなく、柔らかいものが僕の体を受け止めた。


「え? 布団?」


 部屋のすみに畳んであった布団と枕が、いつの間にか開いた状態で僕の体の下にあるとことに僕は驚く。


「あ、俺、変身だけじゃなくて、神通力じんつうりきっていう不思議な力が他にも色々使えるから。

 最初のうちは驚くかもしれないけど、ちょっとずつでいいから慣れていって」

「あ、はい、わかりました」


 僕が返事をすると、倫神使はなぜかうーんとうなった。


「やっぱ、こっちの姿にしとくか」


 そうつぶやくと、倫神使から耳と尻尾と髷が消え、倫くんの姿になった。


「えっと、なんでその姿?」

「だって、拓也、他の姿だと敬語になっちゃうし。

 慣れてきたら、たまにはそういうのもいいけど、最初のセックスくらいは対等な方がいいかなって」

「せっ、セックス⁈」


 倫くんの説明よりも、その中に出てきた衝撃的な単語に僕は反応してしまう。


「す、するの……?」

「うん、もちろん。

 っていうか、布団の上に押し倒されたのに、そういう想像全くしなかったの?

 危機感なさすぎ」

「あ……」


 確かにこれは、完全に今から僕が襲われるシチュエーションだ。

 僕は経験もないし性欲も少ない方だから、倫くんが好きだと自覚しても、そういう欲求にはつながらなかったけど、普通は好きな人とはそういうことをしたくなるのが当然だろう。


「っていうか、神使でも性欲あるんだ……」

「そりゃ、あるよ。

 神使っていっても、元は半分人間で半分獣なんだから」


 ちょっと笑いながら倫くんはそう言う。


「っていうか、拓也はしたくないのか?

 だったらやめておく?」


 倫くんにそう言われて、僕はちょっと考えてみる。


「んー、僕自身がしたいかっていうと正直どっちでもいいって感じだけど、倫くんが僕としたいって言ってくれるのは嬉しいから、その気持ちに応えたいなって思う。

 なんか、すごい受け身で申し訳ないけど」

「いや、気を使って嘘つかれるより、正直に言ってもらった方がずっといい。

 それに、拓也のそういう、俺に対して誠実であろうとしてくれるところも好きだから」


 さらっと「好き」と言われて照れつつも、僕は倫くんの言葉にほっとする。


「えーと、そういうことだから、出来ることは協力するけど、僕はやり方もよく知らないから、今日は倫くんに任せてもいいかな?。

 あと、敬語は直すようにするから、姿も好きなようにしてくれていいから」

「そう?

 んー、じゃあこれで」


 倫くんは少し考えて、顔や体格はそのままで、狐の耳と尻尾を1本だけ生やした。


「一応、今の時代だとこれが一番自然な姿なんだ。

 本来尻尾は4本なんだけど、全力で神通力を使う時以外は1本でいるのが普通だから」


 倫くんはそう説明すると、軽くせきばらいをした。


「それじゃあ、改めて」


 そう言うと、倫くんは布団の上の僕に覆いかぶさってきた。

 洋服越しに2人の体が密着して、それから唇が重なる。

 さっきみたいな触れるだけのキスで済むはずもなく、すぐに熱い舌が唇を割った。

 求められるままに必死に舌を絡めているうちに、何だかもっとくっつきたい気分になってきて倫くんの背中に両手を回すと、お返しのように倫くんの手が僕の左頬を撫でた。


──────────────────


 そうして僕たちは結ばれた。

 倫くんの手で充分に感じさせられた僕と倫くんは一つになり、2人で共に高みに達した。


「……すごい良かった。

 拓也のこと、もっと好きになった」


 倫くんがそんな恥ずかしいことを言っているのが聞こえたけれど、初めての経験に疲れ切ってしまった僕は、そのまま意識を失ってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る