緊縛してたら幼馴染に目撃された

憑杜九十九

第1話 享楽の果てに……




 俺の名前は『桐山 正太きりやましょうた』、極々普通の高校一年生。


 人と少し違う所があるとすれば、昔から何事にも好奇心が強いということくらいだろうか。


 好奇心を抱いて色んな事を知れば、周りの人も俺を褒めてくれた。俺はそれが嬉しくて、増々好奇心を強めていったのだ。


 そう、好奇心は良い事だったのだ。好奇心が人を発展させるのだ。


 誰もそこを責めちゃいけないし、責められる謂れも無い。



 そう、誰も好奇心の芽を摘んじゃいけないんだよ。



 何が言いたいかって、そんな事はこの一点のみ。



 俺は悪くないんだよってことだ。




 その日俺は、友人から聞かなくてもいい事を聞いてしまった。



 縛ると興奮すると。



 その時俺は、変態かお前はとそいつの事を罵った。そして笑い飛ばした。しかし何故だろう、学校から帰った時には俺の手には緊縛用の縄が握りしめられていたのである。


 確かに学校の帰り道には、怪しい大人な店が存在する。確かに帰り道にフラフラとその店に入ってしまった記憶がある。



 俺は手に持っている縄をじっと見つめた。



 ……何てことだ、俺は無意識に買っていたのか。



 くそっ、自分で自分が信じられない。


 そう言いながら俺はその縄を自室のベッドの上に投げつけた。



 鞄を机の上に置き、どかりと倒れ込むように椅子に体を投げだす。


 そして、溜息を一つ吐いた。



 何やら疲労感のようなものもあるが、ベッドに横になろうとも思わない。



 勉強する気にもなれず、だがこれといってする事があるわけでもない。



 ………………。



 ああ、暇だな。



 手持ち無沙汰になると、自然とスマホに手が出てしまう。



 最近の悪い癖だが、どうしても手放せないんだよなぁ。



 そんな事を考えながらスマホの画面に目が釘付けになっていく。




 ああ、なるほどなぁ。



 ふんふん、そうかぁ。



 そうか、こうやって縛るのか……。



 凄い態勢だなぁ……、痛くないのかなぁ……。



 ………………。



「って、ちぃがあああああぁぁうぅぅぅぅぅ!!!」



 俺は勢いよくベッドにスマホを投げつけた。



 何を調べちゃってんだよ俺は! 縛るとか興味ないから! そんな趣味ないから!


 なんだ、なんだこれ、何のトラップだよこれは。誰かが俺をマインドコントロールしているのか? 自然と指が検索してたんだけど!



 くそっ、今日の俺はどうかしているな。



 取り敢えず心を落ち着けて冷静にならないと。


 気付けば着替えもまだしてないじゃないか。まったく、何をやってんだか……。



 そんな事を考えながら、俺は上着を脱いでそれをハンガーに掛けた。



 またもや溜息を吐くと、今度はベッドの上に腰かける。



 ああ、疲れてるのかな俺。きっとそうだな……。



 そして自然とスマホに手が伸びると、スマホを弄りながらシャツを脱いで椅子の背もたれに掛けた。



 ああ、部屋着はクローゼットの中かぁ。



 取るのめんどくさいなぁ。



 ごろんとベッドに寝転がりながらズボンも脱いでその辺に放り投げた。



 インナーシャツとパンツ状態でスマホを弄る。


 高校生男子ならよくあるスタイルだ。



 今は家には誰にも居ないからな、こんな格好で寝てても誰にも文句は言われないのだ。ちょっとした解放感だ。誰しもそんな解放感を味わいたいときがあるだろう。


 なんたって、今はこの家に俺一人だからな。



 なんなら全裸でも構わないんだぜ。



 …………。



「ひぃやっほーい!!」



 俺はインナーシャツとパンツを勢いよく宙へ放り投げた。



 そしてベッドの上に全裸で寝っ転がる。


 全身の肌に感じる冷やりとしたシーツの感触は、一度やったら誰でも病み付きになるに違いない。


 ゴロゴロとベッドの上を転がって全身で余すことなくこの感触を味わうのだ。



「いぃやっほぉぉぉぉ!!」



 テンションの上がってきた俺は、ベッドの上に転がっていた縄をほどいてぶんぶん振り回し始めた。



「股間すれすれで振り回すのおもしれぇぇ!」



 俺は当たるか当たらないかのギリギリのラインを攻めた。


 何故なら、ギリギリになればなるほど、ぞわぞわする感じを楽しめるからだ。


 当たったら大変な激痛が走るだろう。悶絶するだろう。


 むしろそのリスクが、よりこのゾワゾワ感を高めるのだ。



 そんな事を何度もやってると、縄が足に絡みついて床の上に倒れ込んでしまった。


 どしんという大きな音を立てながら倒れ込んだ俺の頭の上にスマホが降ってくる。


 降ってきたスマホは、こつんと良い音を鳴らしながら俺の頭に当たり、目の前に画面を上にして落ちてきた。



 いてて……、ん? 



 こ、これは……。



 ちょうど画面が見れる状態となったスマホが俺の目に飛び込んでくる。


 思わずその画面を覗き込むと、先ほど検索していた縛り方のあれやこれや。



 俺は足に絡まった縄を解いていきながら、そのスマホの画面から目が離せなくなっていた。



 何故か縄を解くことに苦戦し、10分が過ぎる。



 そうするとどうだろう。



 驚くべきことに、いつのまにやら俺の足がエム字開脚の状態で固定されるように縄が絡まっているではないか。



 お、おかしい……。


 俺は確か縄を解いていたはずなのに、何故もっと酷い状況になっているのか……。



 しかも、なんだこれは……。



 正面から見ると、全てが丸見え状態になってるじゃないか。



 …………。



 それにしても……。



 何この高揚感。



 やだ、新しい扉開けちゃった?



 これ、どうせなら全身を縛っちゃう?


 こういう機会もめったにないからな。人生で一度くらいは縛られるのも有りって言うしね。せっかくだからやっちゃおうかな……。



 やっちゃえ、ニッ〇ン



 よーしよし、そうとなったらテンション爆上がりよ。


 えー、なになに、ここを通して、んで、こっちからこう通すと。



 おお、絞まってきたよぉ。



 これは、なかなか。うん、なんかよく判らんが、その、あれだ……興奮、するかも?



 よしよし、こうなったら最後まで完成させるぞ。




   ☆



 


 そこから悪戦苦闘しながらも、なんとか緊縛すること一時間。



 俺はエム字開脚の足と腕がくっ付いて離れない状態で動けなくなっていた。



 や、やべえ、どうしよう、身動きが取れない。


 ちょっとこれ、早くなんとかしないと、親が帰ってきちゃうよ。


 誰かに助けを呼ぼうにも、こんな状態を誰かに見られたら確実に死ねるし。



 ど、どうすんのこれ!?



 最初は良かったんだよなぁ、全裸状態の興奮もあったし。なんか新しい扉も開けそうだったし。


 しかしなんてことは無い、今開きそうなのは地獄の門だったよ。



 俺はどうにかならないかと辺りを見回す。



 そ、そうだ、この縄を切ればいいのか。



 よし、そうとなったら、机の引き出しの中のハサミかカッターを……。



 俺はなんとか体を動かして机の方へと移動を開始した。


 ゆっくりと、焦らず、ちょっとずつ。



 お尻の右と左を交互に床につけて、少しずつ前へ前へと進んでいく。



 よし順調に移動できているぞっと思ったときだった。



「うわっ!!」



 バランスを崩して背中の方へ転んでしまった。



 うわっと、……お、おい、何だこれ起き上がれないぞ! 


 まるで引っくり返された亀のように、仰向けに転がりもがく俺。




 ――そんな時だった。




 俺の部屋の扉の向こうに足音が聞こえてきたのである。


 

 誰かが近づいて来ているっ!



 俺の心臓が早鐘を打つ。



 俺は今全裸でエム字開脚、しかも仰向けに転がっていて扉からはケツの穴まで丸見え状態。


 ダメだダメだっ!! この状態を見られる訳には……。



 俺の焦りはピークに達し、全身の穴という穴から汗が吹き出し始める。



 しかし無情にもその足音はどんどんと近づいてくるのである。



 一歩、また一歩と。



 そしてその足音は、俺の部屋の前で止まった。




「正ちゃん、いますかー?」




 その声と共にがちゃりと開けられる扉。


 その扉の向こうから顔を見せたのは、隣の家に住んでいる俺の幼馴染『槙城 小羽まきしろこはね』だった。




 ――その時、一瞬だけ時が止まったかのように静まり返る。




 一瞬意識が飛んでいたのか、無表情のまま立ち尽くす小羽。


 

 そして、我に返った小羽は俺の姿を見て引き攣ったように顔を歪ませ、悲鳴を上げながらこの場から逃げ出していったのである。




 ああ、終わった……。



 目の前が真っ白になる……。



 

 俺は小羽の悲鳴を聞きながら、遠のいていく意識をあっさりと手放した。




 そして俺の心臓は、静かにその鼓動を停止させるのであった。

 





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