さぷらいずのぷれぜんと!

 「ホーホッホッホ!もちろんじゃとも!皆いい子にしていたら、きっと、また会えるぞ!では!ワシは今から、別の子に夢を届けに行く。来年まで、のう!」

 老人は言って、優しく笑みを浮かべて誓う。

 それは、……何だからしいものであり。

 つい、微笑ましく思えて、笑みが浮かんだ。

 「うん!!約束だよ!!」

 アビーもまた、にっこりと笑って、頷いた。

 「では!」

 またまた、老人は手を振るなら。

 そのタイミングで、乗り物はエンジンが掛かるような音を立てる。

 「!」

 ふわりと、重さを感じさせない浮遊を見せるなら。

 また、鈴のような音色を奏でながら、空へと飛び立っていく。

 その際、光の軌跡を描いていて。

 冬空にそれは、映える。

 「……。」 

 その光の航路が、線路にも見えて仕方ないが。

 ただただ言えるのは、らしく、美しかったと。 

 その乗り物が描く軌跡に向かい、俺たちは手を振り続けた。

 「!!わぁ!!」

 「!!」

 また、タイミング同じくして、星が降り注いでいく。

 流星群。

 それは、……果たしてあの老人が起こしたものか。

 そうであっても、冬空の軌跡に似合うそれらに、アビーは感嘆の息を漏らし。

 俺は、はっと目を見開いて、見届ける。

 「えへへっ!」

 アビーは、見て、笑みを浮かべたなら、目を瞑って。

 「!」

 それは、流れ星への願い方。

 ……この日に、何を願う?

 ……幸せの日に、何を願う……?

 「……。」

 俺は横目で見ていて、ふと思った。

 やがてアビーは、目を開く。

 「……えへへっ。」 

 挨拶に、また笑んで。

 様子から、とても嬉しそうな願いだろうか。

 つい、見とれていると。

 「ねねね!大和ちゃん、何を願ったの?幸せの日に、何を願うの?」

 「?!」 

 アビーはこれ幸いと聞いてきて。

 いつもそうだが、こう突拍子もないことだと、反応は遅れてしまう。

 また、願おうにも、……あれ、何を願おうか?

 逡巡があって。 

 だが、顔を覗かれると、せがまれていると思ってしまうなら。

 「……わっかんないや……。」

 俺は、アビーのように言うしかない。

 「あははっ!大和ちゃんおかしー!!」

 「……。」 

 その結果、アビーに笑われた。

 恥ずかしくも、俺は何も言えないのが若干情けなくも思う。

 「……あらあら。ムード台無しね、また。」

 「……えぇ~……。」

 追い打ちがマフィンからあり。

 俺は、困ったと情けなさで、複雑な気分になってしまった。

 「じゃあ、マフィンな何を願った?」

 このままなのも、何だかなと思ったなら、ちょっとした反撃に出る。

 「なっ?!うっ……。」

 マフィンは、途端言葉を詰まらせて。

 「……?」

 首を傾げていると。 

 「……早すぎて、願えなかったわよ……。」

 「?ん、何て?」

 ぽつぽつ言うが、よく聞こえないでいる。

 「な、何でもないわよっ!ぬぐぐぐ……。」

 マフィンは、はぐらかして。

 しかし、どこか悔しそうでもある。それは、もしかして。

 願えなかったとか?

 「えへへへ~。マフィンちゃん、もしかして願えなかった?」

 それをアビーは、不思議と見抜いて言ってきたなら。

 ちょっとだけ、意地悪そうに笑む。 

 「むかっ!」

 アビーのそんな態度に、マフィンはカチンときて。

 「みにゃ?!」

 徐にアビーの柔らかそうな両頬にそれぞれ手を当てては。

 「そういうあなたは、何を願ったのかしらぁ~?!」

 歯軋り混じりに言っては、思いっきり引っ張った。

 「?!痛い痛い痛い!!だ、ダメだよ!教えないぃ~!」

 「……うぐぐぐ……。」

 なお、アビーは痛みに涙目になりながらも、しかし答えない。

 マフィンは、そうであっても、解消されず、もどかしさを露にしていた。

 「……。」

 二人のやり取りに、何だかなと思いつつ。

 さて、自分はどうしようかとも思っていて。

 「お~い!!」

 「!」

 そんな折、見知った誰かの声を耳にする。 

 丁度後ろからであり、俺は、振り向く。

 「!あ、あら……。」 

 「みにゃ?!」

 マフィンは、振り返り、取り乱したのを改め。

 アビーは、痛む両頬を押さえながら、振り向く。

 その、俺たちの後ろにいたのは、ライオンの人、レオおじさん。

 心配そうにしていて。

 だが、俺たちが振り返るなら、安心してにっこりと笑う。

 迎えに来てくれたのだ。 

 「あんまり遅いから、心配したぞぉ!がははは!何ともなくて、よかったみたいで。ま、お帰り。」

 「あ、はい。ただいま。」

 掛けてきたのも、やはりその言葉であり。

 俺は、頷いては返ってきたと挨拶をする。 

 「た、ただいま……。」

 「うぅ……。ただいまぁ~。」

 マフィンも、アビーも続いて。

 「ま、なんだ。丁度母ちゃんが料理を仕上げたばかりってな。今日は寄って行けよ!歓迎するぜ?」

 「!」

 皆振り返って、レオおじさんに注目したならと、レオおじさんはやや照れ臭そうに笑いながら言ってきて。

 「料理?!わぁ~い!!」

 その言葉を聞くなり、アビーはさっきの痛みもさることながら。

 飛び跳ねて喜びを見せて。

 「!!……はぁぁ。この子は……。」

 マフィンは、先の恥ずかしさとか、どこかへ行ってしまい。

 また、呆れ果ててしまう。 

 「がはははっ!やっぱりお前さんたちらしい!さて、子どもたちも待っているからよ!早く帰ろうぜ!」

 その様子、らしいと微笑ましくて、レオおじさんは言って、誘ってきた。

 「?!」

 と、その際仰々しい物音を立て、土道を踏み締めてくる乗り物を察知する。

 何事かと思えば。

 「?!」

 ライトが照らされて、何かが来て。

 眩しさについ、目を細めていたが、慣れてきて、よく分かるなら。

 それは、いわゆるクリスマス風のバス。

 可愛らしいトナカイの絵を先頭に描き、後方はソリのよう。

 赤と緑を基調とした色彩と、リース。

 らしいバスが、こちらに向かってきていた。

 そうだね。

 俺たちが乗ってきた乗り物の、バスバージョンといった感じか。

 つい先ほど見送ったのにと驚くが。

 単なる車であるという違いに、これはまた別の案件だろうと安心する。 

 「!!おっと!子どもたちへのちょっとしたサプライズプレゼントが来たみたいだな!がはははっ!へそくり貯めといてよかったぜ!!」

 「!」

 どうやらこの、クリスマス風?

 いや、言うならハッピーホリデー風バスを呼んだのは、レオおじさんのようで。

 来たなと感じて、レオおじさんは喜ばしそうに笑む。

 なんだ、そういうことかと納得に、頷く。

 「ほっ……。」

 「!」

 側のマフィンも、安心したようで。 

 つい先ほど見送ったのに、また……。なんて考えていたのだろうからか。

 「!!あ、さっきのおじいさん!!また会いに来たんだ!!」

 「?!はっ?!」

 「?!えっ?!」

 やがて、バスの乗車口が開くなら。

 アビーがはしゃぎ、指さして言ってくることには、それで。

 何事と視線を追うなら。

 サンタクロース風。 

 いや、ここでは、別のそう、ニコのウィザード風の老人が現れて。

 一瞬コスプレとも、思えたが、……どうも似すぎていて、思えない。

 そのことに、俺とマフィンは、度肝を抜かれて、目を丸くする。

 「ホーホッホッホ!!ハッピーホリデー!!」

 また、高らかに、祝う言葉を述べてきて。

 両手を広げて、祝う仕草もあって。

 その言葉といい、声といい、さっき俺たちを降ろしたあの老人と瓜二つ。

 それは、余計にぎょっとさせる。

 「おじいさん!!ハッピーホリデー!!」

 そんな俺たちのことなんて知らず、アビーは言って。

 返事をして、手を振っている。

 「はい!ハッピーホリデー!!」

 その老人は、またまた言って、にっこりと笑みを返す。

 「……。」

 「……。」 

 アビーに続いて言えばいいのだが、俺とマフィンは思考停止してしまい。

 どうすることもできないでいる。

 「……?おや?お二人さん、どうしたのかね?」

 「!」

 俺とマフィンの様子は、その老人にも感じられていて。

 不思議に思ったのか、聞いてきた。

 聞かれて俺は、耳をピンと跳ねさせて。

 「え、えと……。さ、先ほどは、ありがとうございます。」

 「……?」 

 「あの、ここまで運んでいただいて……。」

 「……はて?」

 「?!」 

 とりあえず、何か反応しないといけないとして。

 俺がやったことは、まずお礼であり。

 それは、ここまで運んでくれたことだと。

 だが、首を傾げられて。

 それは、何事と俺に思わせる。

 ……覚えていないのか?結果、余計にぎょっとしてしまう。

 「ふぅむ。それは他の人ではなかろうか?ほれ、よくおるじゃろ?」

 「!……う、う~ん……。」 

 その人が気付かせてくれのは、自分と似た服装の誰かではないかと。

 そう言われると、何となくそう思えてならない。

 なにせ、町中ハッピーホリデー一色であるからで。

 このような服装をしているのは、別に不思議じゃないと。

 腑に落ちないと思ったが、説得力もあり。

 俺は、複雑な返事をしてしまう。

 「!!そ、そう……ね。」

 マフィンは、その会話を聞いて、なるほどと思ったらしく。

 何とか、腑に落ちた様子。

 それならばと、マフィンは取り乱したのを整えて、改めて向き直って。

 「は、ハッピーホリデー!」

 そう、祝いの言葉を告げる。

 俺も追従して、改まって。

 「ハッピーホリデー……。」

 そう言った。

 「?ホーホッホッホ!ハッピーホリデー!今日は何かと不思議なことも起こる日じゃからの!」 

 言われたその人は、疑問あれど。

 笑い飛ばして、この場をまさに町のようなお祭り一色の雰囲気に変える。

 「……?お前さんたち、どうかしたのか?……ま、いっか。」

 不思議そうに思ったのは別にその人だけじゃない、レオおじさんもまた。

 ただ、納得したならと、これ以上追及しまいとして。

 また、向き直っては、今度はその人を村へと案内するようで。

 レオおじさんの接待に、その人はニコニコしながら頷いて、案内されていく。

 「っと!ほら、帰るぞ!」

 レオおじさんは、言ってくるなら。

 「!」

 「わ、ちょっと……。」

 「?わわ。待って待って!」

 先ほどの懸念とか、そっちのけで俺たちは、レオおじさんの迎えに従って。

 置いて行かれまいと走り出した。

 

 これから、村でもハッピーホリデーの祝いを始めるとして。


 向かう道中にて。

 「……ね、ねぇ。」

 「!……な、何かしら……?」

 俺は、軽くマフィンの服を突いて、呼ぶ。

 マフィンは、振り向いてきて。

 「まさか、さっき俺たちを乗せていったのが、〝本物の〟ニコのウィザードとか……?」

 「?!え、また何で?!」

 マフィンに言ったのは、俺の疑問。 

 まさか、本物じゃないだろうかと。

 マフィンはまた、驚いて。

 「……その、伝説上の人、行方不明だからさ、まさかこんな時にひょっこり出てきて、祝っている~……なんてね……。」

 「……大和あなた、時折メルヘンなこと言うよね。」

 「あはは……。」

 驚くならと、根拠を述べるなら。 

 こういう時、どこかから、その本物のその人が現れて。

 祝福しているってのなら、何だかいいような気がしてと。

 なお、マフィンはその説に呆れを示して。

 俺は苦笑してしまう。

 「伝説上では、ありがちでしょ?こういうの。」

 「そうだね……。」

 「仮に生きていたとしたら、お婆さまの年齢もびっくりなほど長生きよ?」

 「……そっか。」 

 呆れ果てて、軽いお説教が来る。

 それも、伝説とかにはありがちな設定だとして。

 仮に生きていたとしたら、一体いくつになるやらと。 

 確かにそれを言われると……。

 説得力がある。 

 なら、単なるコスプレした人だということか、この人も、あの人も。

 「?!あれ?」

 「?」

 と、俺とマフィンよりも先に行っていたアビーが足を止めて。

 何事と思うなら。

 上空から、あの独特な鈴の音色が聞こえてきて。 

 見上げたなら、あのスカイモービルの光の軌跡を上空に描いていて。

 星を降らせるように、光を降らせていた。

 「……。」

 一瞬ぼんやりしてしまうが。

 

 ―ハッピーホリデー!!

 

 「?!」

 幻聴か、その祝いの言葉が響くなら。

 つい、びくりと体を弾ませてしまう。

 「……。」

 そうして、また上空を見上げるなら。

 あの老人が笑った気がした。 

 まさかと思うが……。

 ……案外、本物も紛れているのかもしれない……。

 

 幸せの日の空にて思い、そっと優しく笑った。

 

 そうして俺たちは、幸せの日の祝いを始める。

 レオおじさんの子どもたち含めて、村中の子どもたちも集まり。

 町であったようにこう歓声を上げるのだ。


 「「ハッピーホリデー!!!」」

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