竜の娘ミリアム
@Miriam
プロローグ
懐かしい気配がした。
かつて、自分が加護を与えた者の気配。
もちろん本人ではあるまい。
人間の寿命はあまりにも短い。
転移してみると人間の女がいた。
アルフレッドに与えた竜玉、「赤竜の涙」を使って扉を開いたか。
人間にしては相当な魔力のようじゃが死にかけておるのう。
大層な怪我をしておるし、毒にもやられているようじゃ。
胸に抱かれている人間の幼生は転移してきてすぐに何かを感じたのか泣き止んだか。
「久方ぶりの訪問者じゃが、懐かしい気配じゃの。アルフレッドの子孫か、そなた?」
「アリシア様、なのですか?」
なにを当たり前の事を言っておるのじゃ。
自分の命を使って扉を開けたのであろうが。
「どうかこの子をお守りください。 名はミリアム、ミリアム=アークライト。
ただのミリアムとして、どうか、どうか……」
人間の女は激しく咳き込み、血の塊を吐く。
自分の命よりも我が子の心配か。
この者は命の使い方を知っておるの。
「よかろう。アルフレッドとの誓約じゃ。 その石を持つ者の願いを一度だけかなえよう。 そなたの命は間もなく消える。 最早、妾でもどうしようもない。 契約の代償なのじゃ。 他に伝えることはあるか?」
「強く、優しく生きよ、とだけ…… ありがとうございます……」
女は最後の力で赤子を差し出す。
それを受け取ると、女は力尽きたが、その顔は安らかで、穏やかな笑みが浮かんでいた。
あとで人間の様式で丁重に弔ってやるとしよう。
「ふむ、人間の赤子か。 名前はミリアムかえ?」
ミリアムという名前の赤子の顔を覗き込む。
泣き止んだ、腕の中の人間の赤子がぱっちりと目を開く。
そして微笑んだ。
気が付いた時には執事長のバルメロイに声をかけられていた。
「ア、アリシア様!? いったいどうなされたのです? この尋常でないマナの放出は?」
こやつのうろたえておる姿は初めてじゃのう。
マナの放出?
妾がマナを放出したのか?
「何を言っておるのか良く分からぬ。 説明せよ。」
「は、説明と申されても、先ほどマナがかつてない程アリシア様から放出されまして、驚いて確認に来ますと、その人間の赤子を抱いたまま茫然とされておりまして……」
何を言っておるのじゃ、こやつは。
それほどのマナを出してしまえば、あとの調整が面倒ではないか。
他の者からも何を言われるかわからん。
特に「黒」と「青」はうるさいしの。
しかし、確かに膨大なマナでここは満ちておる。
しかも高純度、澄み切ったマナじゃ。
これを妾がやったのか?
しかも覚えておらんとは?
「あーあー」
抱いていた人間の赤子が嬉しそうな声をあげた。
見た。
笑っている。
体からマナがあふれ出す。
止めようもない。
自分が笑っているのがわかった。
「アリシア様!?」
わかった。
この赤子がいとおしい。
なんという可愛さか。
自分の身にかえても守りたい。
笑いかけられてたとえようもなく嬉しい。
存在し始めてからついぞ味わったことのない感情じゃが、これが人間のいう愛情か。
これが幸せな気持ちとういうやつか。
悪くないのう。
まったく悪くない。
口に貼りついた笑いはそのままじゃ。
元に戻らんのう。
「アリシア様!!」
「なんじゃ、さっきからそれしか言えんのか」
「どうなされたのですか? それにまたマナの放出を?」
それには答えず、パルメロイに伝える。
「この子はミリアム。 妾の娘ぞ。」
同じ「六柱」以外には何者からも傷つけられる事のない自分の指を切って、流れ出た血をミリアムの小さい口にたらす。
この世界の原初の力、竜の魔力が赤子へと流れ込んでいくのに合わせて、さらに自分のマナを同化させる。
「ア、アリシア様ーーーーー!!!!!?????」
妾に仕えて二千二百年になるが、初めて聞く執事長バルメロイの絶叫があたりに響く。
うるさい奴じゃ。
「我、「赤」のアリシアの血脈をミリアム=アークライトに与え、我が娘とする!」
契約完了じゃ。
ミリアムよ、お前は今より妾の愛しき娘ぞ!!
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