ハグレモノのはなし
丸 子
第1話
普段から、ぼんやりしている子がいました。
何を考えているのか分からない、話しかけてもチグハグな応えが返ってくる。
周りは少しずつ離れていきました。
いつしか「ハグレモノ、ハグレ」と呼ばれるようになりました。
クラスの人気者がいました。
何をしても上手にできる、成績も良く、先生からの受けも良く、よく目立つ存在でした。
頭の回転が速くて、生き残る知恵も持っていました。
周りから「ケンジャ」と呼ばれていました。
「ケンジャ」は「ハグレ」が嫌いでした。
どんくさいし、何をやらせても遅いし、しかもロクな成績を残さない。
そんな「ハグレ」が大嫌いでした。
ある時、英語のスピーチ大会がありました。
もちろん「ケンジャ」は代表に選ばれました。
ステージに上がり、スピーチを始めて数分後、観客席がざわついていることに「ケンジャ」は気がつきました。
先生がスピーチを止め、ざわついている原因を突き止めました。
原因は「ハグレ」でした。
「ハグレ」はステージに上げられ、先生に何をしていたのか問われました。
しかし、「ハグレ」は何も応えません。
どこか宙を見つめているばかりです。
怒っていた先生も、次第に呆れてしまい「ハグレ」をステージから下ろし、会場からも出してしまいました。
ある時、音楽発表会がありました。
「ケンジャ」はピアノもバイオリンも弾けますし、声が綺麗ですので、ピアノの伴奏、バイオリンの発表、合唱ではソロを歌いました。
すると、またもや、会場がガヤガヤとし始めました。
中断した結果、「ハグレ」が騒ぎの元だと判明しました。
二度目です。
ある時、運動会がありました。
「ケンジャ」はリレーの選手になり、しかもアンカーを務めました。
運動会一番の見せ場です。
リレーのバトンが次々と渡され、いよいよアンカーの「ケンジャ」の番まで来ました。
「ケンジャ」がバトンを握りしめ、走り始めたその時、どこからか「ハグレ」がやってきて、「ケンジャ」の隣を走り始めました。
グラウンドは大混乱です。
先生がコースに入ってしまえばリレーは台無しになってしまいます。
見守る観客たちの前を「ハグレ」は「ケンジャ」にピッタリついて走り抜けます。
「ケンジャ」と全く同じ非の打ち所がない走り方で、全く同じスピードで、真っ直ぐ前を向いて走る「ハグレ」を、全員が驚いた表情で見つめます。
誰も言葉を発しません。
シーンと静まる中、「ケンジャ」と「ハグレ」は全く同じタイミングでゴールの白いテープを切りました。
苛立つ「ケンジャ」は「ハグレ」に摑みかかろうとしましたが、冷静な態度を取り続けることに決めました。
腹のなかは怒りで煮えたぎっています。
これで三度目だ!
「ケンジャ」は今までの邪魔された場面を思い出していました。
英語のスピーチ、音楽発表会、運動会。
その時、ふと、ある思いに至りました。
まさか、いや、でも試す価値はある。。。
「ケンジャ」は「ハグレ」を連れて、グラウンドの朝礼台の上に立ちました。
先生にマイクとスタンドを設置してもらい、マイクに向かって英語のスピーチを始めました。
すると
「ケンジャ」の素晴らしい発音と全く同じ発音が「ハグレ」の口から流れ出てきました。
堂々と、大きな声で。
次は音楽室。
「ケンジャ」のピアノの伴奏に合わせて「ハグレ」も全く同じ伴奏を楽譜も見ずに演奏していきます。
バイオリンも、合唱のソロパートも。
全て「ケンジャ」と全く同じように、完璧に。
「ハグレ」には美しいものを完璧に真似できる能力があったのです。
「ハグレ」の能力を認めた「ケンジャ」は「ハグレ」を受け入れました。
それにならって、周りも「ハグレ」を仲間として受け入れました。
自分を美しいものと判断した「ハグレ」を評価して、「ケンジャ」は「ハグレ」と一緒にいるようになりました。
そして、いつしか、2人は親友になりました。
それから2人は大人になっても良い関係を築き続けました。
ハグレモノのはなし 丸 子 @mal-co
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