おばけやしき

丸 子

第1話

ここに おばけやしきが あります。


おばけやしきには もちろん おばけがいるわけですが、中には わるいのが おりまして 人の こわいキモチを おばけの ゆう気にかえる ものも ありました。

ゆう気があれば げんきになります。

だから わるい おばけには ゆう気が ひつようなのでございました。


ここに おばけが おります。

この おばけは 人の こわいキモチが だいすきな わるいわるい おばけでした。



さて、おばけやしきに 来ているのは 小学生の3人組。

女の子1人と男の子2人です。



おばけやしきに来る 子どもたちは だいたい こわいのを楽しみたいのが半分、本当は こわいけど こわくないフリをして来ているのが半分くらいで ございます。


でも この3人組は おばけがいると信じていて、それでも来ております。

だから とても こわがっておりました。


ということは

わるいわるい おばけにとって うれしいおきゃくさまでありました。


さいきんは こわがる子どもも へっておりまして、このわるいわるいおばけの ゆう気も へっているところでしたから、たいそう よろこんだわけでございます。




「さてさて、どんなふうにして こわがらせてやろう。

はらのそこから ひく〜い声を出して

う〜〜ら〜〜め〜〜し〜〜や〜〜」




「それとも こおりのように 冷たいいきを くびすじに ふきかけてやろうかな。

ふぅ〜〜〜〜〜〜」




「いや、まてよ。

音をたてずに すぐ近くまで よって行って とっておきの えがおを 見せてやろうか。

ニヤリ」




と ひとりで れんしゅうして おりました。


そのとき、ひめいが きこえてまいりました。


「よしよし、あの3人組の声だ。

きたぞ、きたぞ」



「あー、こわかった。

井戸から 人が出てきたね」

「わかっては いたんだけど、出てくると こわいよね」

「ぼく、もう かえりたいよ。

あと どれくらい?」




「きっと あと もうちょっとだよ」

「がんばろ、ね!」

「うん」



そろそろかな、と はらのそこに 力をためるために おばけが 大きく いきをすった とたん




ピンピロピンポン ピラピラピ〜〜


大きな音がしました。


おばけは びっくりして、いきをすったまま とまってしまいました。

いきの はき方を わすれて、口をパクパク あけたりしめたり。

なんだか たおれてしまいそうです。



「ちょっと!

マナーモードにしてないじゃない!」

「ごめんごめん」

「うるさいから、はやく 音をけしなよ」



3人組の はなし声で 目をさまし、おばけは ふかく しんこきゅうしました。

でも、なにか へんです。

からだが 小さくなったような………。


でも 子どもたちが とおりすぎてしまいます。

もういちど、大きく いきを すいこんだとたん




(11)

「ああっ!!!」

女の子が それはそれは 大きな声を出しました。


その声に男の子2人が ビクッとしまして、

おばけも ビクッとしてました。


「どうしたの? 大きな声を出して」

「そうだよ! びっくりするだろ!」

「ごめん、そんなことより、たいへんなの!

きょう じゅくの日だったの、わすれてた!

いますぐ かえらなきゃ!」

「えーっ!!」

「じゅくを休んだら お母さんに しかられる!

ぜったいに かえらなくちゃ!」



その声に おばけのからだが また小さくなって、なんだか とうめいになってきたような………。




(12)

わるいわるいおばけに ねらわれているのもしらず、3人組は 大さわぎでございます。

どうやら、あわてているのは 女の子だけではないようです。


「あ、ぼくも しゅくだい やってないや。

ゲームできなくなっちゃう。

どうしよう」

「え、しゅくだい あったっけ?

ぼくも やってないよ。

お父さんに おこられる。

どうしよう」




(13)

おばけも おなじくらい あわてておりました。

今こわがらせなければ、おばけの ゆう気は なくなってしまいます。

ゆう気が なくなれば、おばけは きえてしまいます。


ほら、見てごらんなさい。

これ、このとおり。

スッケスケでございます。


「ああ、もう 小さな声しか出ない。

きえてなくなるまえに もう おどかしてしまおう」


と いうわけで

3人組のまえに よろよろ〜〜っと 出てまいりまして

とくいの ニヤリ を見せようとしたとたん




(14)

「もー、ヤバいって! 走るよ!」


と3人組が おばけに とっしんして まいりました。


おばけのほうが ギャー!となりまして

うでで かおを おおったのですが、スッケスケなもので おばけに ぶつかることもなく 3人組は とおりぬけてしまいました。




(15)

とおりぬける しゅんかん


「ん、なにか かおに あたったかな?」


と 男の子の1人が なにかに気づいたようでしたが


「そんなこと言って おどかしても むだだよ。

おばけよりも こわいのは お母さんなんだから!」

「ぼくんちの お父さんも こわいよ!」

「そうだね、おばけのほうが よっぽど やさしいや」



「おばけのほうが よっぽど やさしい」

この ひとことが きめ手となりまして、おばけは けむりのように シュッと きえてしまいました。

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おばけやしき 丸 子 @mal-co

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