02 朝山和沙の登校



 朝の時間。

 玄関を開けると、通勤のサラリーマンや通学の学生の姿が目に入った。


「きゃあああっ、遅刻しちゃう! お母さん、もっと早くおこしてよっ!」

「和沙が起きなかったからでしょう。ほら、お弁当」


 盛大に寝坊した朝山和沙、私はどたばたしながら家をでた。

 玄関でおかあさんがもたせてくれたお弁当をかかえながら、急いで向かうのは私が通っている高校だ。


 学校に通うのなんて面倒くさい。勉強勉強勉強だし、毎日が退屈。

 でも、友達と話せるのは嫌いじゃないし、修学旅行とかイベントとかは好き。

 それに、学校にはあの人がいるから、毎朝高校へ登校するのは最近少し楽しみになった。


 今日はあの人とどんな事を話そう。

 どんな事を話してあげよう。

 そんな事を考える時間がたまらく楽しくて、愛おしかった。


 あの人の仕草や、表情、声音を思い出すだけで、胸が一杯になってくる。


 私はきっと、恋をしてるんだ。


 その、気になるあの人の名前は、久城明久君。

 よく見る夢の中で出てくる騎士の人とそっくりの男の子だ。


 私はひそかに運命の人なんじゃないかって思ってる。


 きっと私達は、前世では恋人同士で、お姫様と護衛騎士の関係だったのだ。

 世間の目を盗んで密かに愛し合う二人。

 けれど身分違いの二人の恋はうまくいかずに、陰謀でお姫様の城が燃やされてしまうのだ。


 なんてロマンチック。


「明久君に知られちゃったら、呆れられちゃうだろうな」


 だらしなくゆるむ表情を自覚しながらも、夢と甘い妄想を堪能するのをやめる気にはなれなかった。


 あんな夢、きっと本当にあった事じゃない。

 私の願望が映像になっただけに過ぎないって分かってるけど。


 これくらいの夢を見ても良いよね?


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