溢れんばかりの笑顔を君に

嘆き雀

今という一瞬を君と共に

 一輪の花があった。傍らには可憐な少女がいる。

 彼女は朝から晩に至るまでその花を眺めていた。飽きることはないようだ。常に笑みを湛えていて、それだけでその場を華麗に彩りをつける。


 私はそんな彼女が好きだ。花の代わりに彼女をひたすら眺めてるぐらいにはぞっこんである。

 熱意がありすぎるのだろう。疑い無く私の方へ振り返る度の誤魔化しはもう何度目だろうか。

 首を傾げるも納得してくれるその純粋さは私を悶え、高揚させる。


 寝ている時間を彼女に注ぎたい程、もう大好きなのだ。

 だから塞ぎ込んでいく彼女を前にして、辛くならない訳なかった。


 当たり前のことだが、日が経つにつれ花は萎んでいくのだ。花と共にする彼女はここ数日悲愁を漂わせ、とうとう瞳に煌めきを浮かべるまでに至っている。


 だから私は決心した。彼女に花を捧げよう。

 うんとたくさんの花を買い、彼女の笑顔を取り戻すのだ。


 だが、その計画は頓挫する。花咲きには時期尚早であったのだ。

 見事に咲いていたあの一輪は狂い咲き。偶然手に入れたものだ。

 そのことを失念していた私は馳駆する羽目となり―――そして潮垂れる。


「……私は能無しだな」



 情けなく、固く閉ざされた蕾である状態の花を差し出した。

 俯く私は恐れながらもそろそろと顔を上げる。何も窺い知れないのには耐えきれなかった。失望したという視線を向けられたら、衝撃を受けるに違いないのに。


 だがしかし、仰いだ先には私に微笑みかける彼女がいた。予想とは正反対である。これは幻覚か?

 そう思考しながらもぼうっと望みであった笑みに見惚れていると、頭部に何か感触があった。これは―――頭を撫でられている? 誰に? 彼女しかいない!

 ポンッと耳まで赤く染め上げ羞恥する。

 感情があっちこっちと動き回るが、彼女が紡ぎ始めたその歌声で沈静化することになる。


 それは異郷の歌だった。聞き慣れぬ旋律であるが、ぽかぽかと心が暖かくなっていくような不思議な力をもっている。


 ――――ありがとう。


 歌が終えたとき、蕾であった花は満開であった。

 花同様、彼女は満面の笑みである。


 好きだなあ。


 永久を生きる花の精にとって今という一瞬を一喜一憂してくれる。そのことに私は胸をいっぱいになり、彼女に追従して顔を綻ばせた。

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