02 僕の日常



 僕がその噂を聞いたのは、母さんから殴られた回数を数えなくなった頃。

 暴言を吐かれた数を記憶しなくなった頃だ。


 数少ない僕の友達から聞いたその話は、ある不気味な噂についてだった。

 それは、ドッペルゲンガーという化け物の話。


 夜中のゼロ時に鏡の前にたって呪文を言うと、自分とそっくりな存在、ドッペルゲンガーが現れるらしい。

 そして、何もしないままその日から三日経つと、自分とドッペルゲンガーが入れ替わるという。


 聞いた当初はそんな馬鹿な、と思った。

 ただの噂だと。


 でも、一日、二日経ったら、ひょっとしてと思うようになった。

 三日経った頃には、もし本当だったらと、そう思わずにはいられなくなった。


 だから、僕は試してみる事にしたのだ。


 鏡の前に立って、友達から教えてもらった呪文を口にした。


 噂の通りちょうどゼロ時に、お母さんを起こさないように、こっそり化粧机の鏡をみながら呪文を口にした。


 結果は成功だ。


 鏡からでてきたもう一人の僕をみて、久しぶりに笑いがこみあげてきた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る