第9話 僕たちは兄妹

 妹の顔が青ざめる……ショックだったのか戸籍謄本を見つめたまま硬直している。


「……そ、空?」


「…………」

 妹はそのまま倒れる様に床にへたりこんだ……。


「そ、空!」


「ふ……」


 妹は両手で顔を押さえる……そして声を圧し殺して泣き始めた。


「そ、空? 空!」

 僕は椅子から立ち上がると妹の前に座り、そして妹を抱き締めた。


「……お兄ちゃん……おにいちゃあああん」

 妹は僕にしがみつく、僕の胸に顔を埋める……そしてわんわんと泣き始めた。

 僕の背中に妹の爪が刺さる……でも……痛くない……全然痛くない……。

 僕は構わずさらに力を込めて妹を抱き締めた。


「大丈夫……大丈夫だよ……」


「ふ、ふええええええん、おにいちゃあああん」


「大丈夫……僕達は兄妹だよ……血なんて関係ない……大丈夫……大丈夫だから」


「ふええええええん……」

 妹はずっと泣き続けた……ショックだったんだろう……ずっとずっと……僕はそのまま泣いている妹を強く抱き締めていた。僕はここに居るよって、僕はずっと前から、今も、そしてこれからも……空の……お兄ちゃんだよって、そう思いながらずっとずっと妹を抱き締めていた。


 どれくらい経ったのだろうか? 空が泣き止め僕の背中に回していた腕の力がフッと緩んだ……僕も妹を抱く力を緩めると、妹は僕の胸からゆっくりと顔を上げた。


「…………おにいひゃん……ごべんなざい……」

 空は顔を上げると僕に向かってそう言う……涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔……でも全然汚いなんて思わない……綺麗……尊い。


「あーーー、可愛い顔が台無しだよ」

 ハンカチは持ってない……僕は側に置いてあったティッシュから紙を数枚取ると妹の涙を軽く拭き、鼻に押し当てた。


「はい、チーーンって」


「ぶひゅうう」

 僕に言われるがまま妹は鼻をかむ……何をしても妹は可愛い……汚いなんて全く思わない……何でこんなに可愛いんだろうな……ってただそれだけ思う。


「落ち着いた?」


「……うん」


「あーー、明日着ていくのに、ほらこっちにおいでスカートが皺になっちゃう

 」

 僕は立ち上がると、ベットに座り妹を隣に座れと促した。


 妹はそう言われると、よろよろと立ち上がり僕の隣にちょこんと座る。

 そして僕は横に座った妹の頭を、髪をゆっくりと撫でながら語り始めた。


「覚えてる? 初めて海に行った時の事」


「……うん……確か……小1の時……」


「空さあ……まだ全然小さいのにビキニが着たいって言ってさあ、それで買って着たのはいいけど、海ではしゃぎ回って上が取れちゃって」


「ううう、恥ずかしい……何で今このタイミングでそれ言うのお兄ちゃん!」


「まあまあ、僕が何度も着けようとして空を走って追いかけて、空は構わずに逃げて行ってさあ……」


「ぶうううう」

 頬を膨らませてしかめっ面で抗議する妹……でも僕は構わずに話を続けた。


「一緒に家族皆でお風呂に入って……夜に海岸で花火をしてさあ……楽しかったなあ……あの綺麗な海と花火の事は今でもはっきりと覚えてる」


「……うん……私も」


「それからも色んな所に行ったよね、二人で色んな事をしたよね」


「……うん……お兄ちゃん?」


 僕は妹の頭をそっと抱き自分の肩に引き寄せた。


「僕達は兄妹だよ……ずっとそうやって生きてきた、思い出だって全部残ってる」


「…………うん」


「血なんて関係ない……空は僕の妹……母さんも僕の本当の母さん……」


「──うん……そうだね……」


 僕達は兄妹……ずっと前から今もこれからも……ずっとずっと。


「……うん」



 ◈ ◈ ◈



 その後僕達は揃って母さんにこの事を話した。


 母さんは、いつか話さなければいけない……でもまだ幼い僕達に話しても理解出来ないだろうと、そしてだいぶ前に父さん決めていたそうだ……高校生になったら話そうと……しかしその話をしてから何年も経ってしまったのと、今回の父さんの急な転勤ですっかり失念してしまっていたと……。


 ちなみに謄本は本当に間違えて取ってきてしまったらしい……。


 その話を聞いて、僕と妹は呆れてしまった……そんな大事な事を忘れてしまっていた事も、謄本を見ても思い出さなかった事も……。


「ごめんねえ」


 そして、その一言で終わらせてしまう母さんの事も……。


 でも……僕も妹もすぐに笑った……3人で笑ってしまった。


 そうだね、そんな大事な事も忘れる位……僕達はずっと前から親子だった、兄妹だった……どこの家よりもずっとずっと仲の良い家族だった。



 変わらない……これからもずっと……。


 昔から、今も……これからも……ずっとずっと……大事な、大切な……家族なんだ……。


 僕はそう思った。



 〖終わり〗





 いや……ちょっと待て……違う……終わんな!


 1つだけ違うじゃん……そうだよ……僕は妹と……空と結婚出来るって事だよ!


 え? どうしよう……ずっとお兄ちゃんだって言っちゃったよ!!


 ずっと家族だって……ずっとお兄ちゃんだって…………。


「言っちゃったよおおおおお!?」



【あとがき】


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カクヨムコン短編出品作品

『妹に彼氏が出来なかったら、俺が責任を取る事になった。』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054893367777


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