第17話 おっさん、社会の闇をかいま見る
今からテレビ
本来生放送なんだが、新人に生はきつい。のでビデオ出演というわけだ。
この辺の融通は、バックにHAZUMAKIホールディングスがついているのが大きい。
テレビ局にとっては大スポンサー企業だからな。
それに、系列に芸能事務所を何社も抱えているし。単にスポンサー企業というだけではなく、メディア事業に深くかかわっている。
半面しがらみも多くなるのだが、これは
鶏冠井さんは有限会社ゴッデス・エンジェルに再就職したわけではなく、HAZUMAKIホールディングスから出向という形になっている。
資本関係がない会社への出向だが、
むしろHAZUMAKI側としてもメリットがある。
「
「はい、キャラクター紹介
「魔王こと山田一郎くんはどこにでもいる、というかイマイチぱっとしない高校生。でもある日トラックにひかれそうになった野良猫を助けて命を落とします。でもその野良猫は実は宇宙を横断する超神様の仮の姿! 一郎君に無限スキルを与え復活させます。同じ頃、一郎君の幼馴染田中花子ちゃんは異世界に召喚されます。花子ちゃんは学業もスポーツも万能美少女。世界を魔王から救う勇者として選ばれたのです。そのことを無限スキルで知った一郎くんは、花子ちゃんの身を案じて自分が異世界の魔王に憑依するのです。魔王配下の凶悪なモンスター軍団から花子ちゃんを護るために」
「はい、声優さんのPV入ります」
「でも無限スキルを得た魔王はレベル99からレベル999に進化しちゃったので、その配下のモンスターものきなみレベルが10倍になってしまいます。LV1で召喚された花子ちゃんの運命やいかに! 魔王一郎くん役は井上正夫さん、勇者花子ちゃん役は松本かおりさん、さらに鈴木健介さん、山本太一さん、川上美由紀さん、沢田由紀さん、河合真理さんら人気声優が集結! ぜひご覧くださいね!」
「はいカット! いいねいいねソフィちゃんお疲れ様!」
番組ディレクターの
スタジオに入って名刺を受け取った時から、なんかねちっこいものを感じるんだよ、こいつ。
「ありがとうございます、神足ディレクター。テレビの番宣は初めてなので、緊張しました」
「いやあ、今の感じなら生でも十分だよぉ。むしろ生向きだよねぇ、ソフィちゃんは」
「そ、そうですかね?」
「日本人離れしたマスクなのに日本語上手だし、
「神足さん、それは事務所を通してくださいね」
鶏冠井さんが割って入った。
よかった。
俺、芸能界なんて素人だからどこまで許容すべきかよくわかんないんだよね。
「筈巻書房さんにはお世話になってますから、ご意向には沿いますよ。でも、彼女の素材は生でこそ生きると思うんですよね。Vだとどうしても作り物臭くなるのでねえ」
「確かに。でも彼女は大切に育てたいのです。その点ご理解ください」
「分かってますよお。でも、出来れば
「善処します」
こいつが『はつ』とか『なま』って言うとき、気持ち悪い発音だった。絶対エロ方面を意識してやがる。
微セクハラだ。
うええ。
「疲れました……」
テレビ朝陽のロビーで俺はぐったりとテーブルに突っ伏しながらつぶやいた。
「いえ、受け答え、大したものでしたよ。
「いや、あれ、ソフィの
「二人三脚ですね! 素晴らしいコンビネーションです!」
「そうですかねえ……」
「あ、こんなところにいた。うわさの
顔を上げると、スリーピースをきっちり着こなしたイケメンが立っていた。
先輩の芸能人だよな。とりあえず、俺は新人だからこっちから挨拶。
「おはようございます」
「おはようございます、
鶏冠井さんも同時に立ち上って、ぺこりとお辞儀した。俺も慌ててお辞儀する。
双岡? えーと、アイドル名鑑で見たような? 芸能界なんて俺はさっぱりわからないので、レッスンの合間に目を通しとけって姉ちゃんに渡されたんだが、まだあまり覚えてない。
(ジャパン事務所の人気アイドルグループ『
ソフィがアシストしてくれた。
「SSSの双岡さん、はじめまして。よろしくお願いします。ゴッデス・エンジェルの
あれ? でもどうして一人なんだろう?
「ほかのメンバーさんは?」
「これから『火曜日の
(双岡さんの単独司会のバラエティです。ほかのメンバーは出てません)とソフィ。
「い、いえ、ああ、そうですよね、今日は火曜日でした。えへへへ……」
「面白い子だねえ。それにしても、うわさの君、
神足? ああ、さっきの番宣のディレクターか。あのねちこい感じの野郎、何が『ヤバい』んだよ!
「僕にも一度その目で見た方がいいって教えてくれてさ。ちょっと探したんだよ」
「は、はあ……」
「君は、確かに
「あの、それはどういう……?」
「いろんな意味さ。君は筈巻さんとこのキャンギャルで収まるような器じゃない。君の前には遥かに大きな世界が広がっている。そしてそれはその分、数多くの敵も作るだろうということさ」
「双岡さん!」
「君は筈巻さんとこから派遣されたマネージャーだよね。君にもわかっているはずだ。必ず敵は生まれる。妬みや嫉みぐらいならいいよ。もっと大きな敵だ。それに対抗するためには、味方の数も揃えておくべきだということを」
「……!!」
あの鶏冠井さんが言葉に詰まった!?
「僕は君の味方になるよ。だから、頼ってくれていい。それを言いたかったのさ」
「はあ?」
「うちの事務所は特殊でね、男性アイドルグループに特化してるから、君と直接は競合はしないよ。だけど他の事務所は、筈巻さんとこの系列も含めて女性アイドルが圧倒的に多い。君が売れれば、困るところも多いんだ。ましてや、今後君の周りでは、ビジネスとして大きな金が動くことになるはずだからね。この意味、分かるよね」
「双岡さん。うちは社長以下全社を挙げて女神……いや、ソフィーリアをサポートしています。そのご発言は、弊社に対し疑念を感じるということですか!?」
「そんなつもりはないよ。でも、会社の方針がそうだからといって、所属タレントが全員それを理解するかどうかは別問題じゃないかな? タレント以外の社員さんもね。ねえ、どう思う? マネージャーさん」
「弊社はクリーンで風通しの良い企業です。会社の方針を理解できない社員や所属員はおりません」
「筈巻さんとこがクリーンだって? 以前の社長が麻薬で捕まったのは、見たところマネージャーさんが生まれる前の事件だろうけど、今でもいろいろあると思うよ。表に出ないだけで」
「貴社も、薬物疑惑や反社会的組織との関係などいろいろ取りざたされたように思いますが?」
「ふふふ。まあ、お互い、噂でしかないけどね」
「そうですね。噂でしかないですよね」
「ふふふふ」
「あははは」
鶏冠井さんの会社がブラックなのは知ってる。
が、こえーよ!
俺はゴシップ雑誌レベルしか知らないけど、芸能界ってやっぱ怖いところじゃないのか!?
俺大丈夫なのか!!??
こんな世界で生き残れるのか!!!!????
「おっとそろそろ時間だ。まあそんなわけだから、俺を頼ってくれていいよ、うわさの君」
さわやかに手を振って双岡はスタジオの方へ去っていった。
なんだったんだあいつは。
「ジャパン事務所。いきなりやっかいなところに目を付けられましたね」
「鶏冠井さん、やっぱり双岡のところはややこしいのか?」
「はい。芸能界の『女帝』と呼ばれるジャパン喜田山さん率いる業界大手です。所属タレントは男性グループのみという特殊な事務所ですが、冠番組が毎日3、4本は放送されています。業界のドンといわれるファイヤー・プロモーションに並ぶ超大手です」
「ファイヤー・プロモーション?」
(タレント名鑑で一番最初の芸能事務所です)
(ああ、俺も知ってる芸能人がいっぱいいたな、そういえば)
「はい、醍醐さんもご存じだと思いますが、かつて芸能界は政財界と闇社会を繋ぐアンダーな世界でした。それは偽らざる真実です。しかし近代化した今は、決してそのような業界ではなくなっています。けれど、今の時代になってもなにかと噂が絶えないのもまた事実です。遺憾ながら過去のアンダーな要素が完全になくなったとはいえません。ファイヤー・プロモーションは所属タレント数では最大手というわけではありませんが、その噂の中心的存在といわれ、事実現在も芸能界全体に大きな影響力を持っています」
「それ、危険があぶないヤツだよね! 裏面のボス的な!」
「はい、弊社といえどファイヤー・プロモーションと直接対立した場合、対抗出来ないおそれがあります。そのような事態に備え、ジャパン事務所と協力関係を結んでおくのは、ありかもしれません」
「そうなんだ。その辺の力関係や何が危険なのかは俺には正直よく分からない。鶏冠井さんに任せる」
「承知しました。対応いたします」
なんか、もやもやする。
芸能界の連中、表情が読めん。俺の対人スキルなんて所詮素人相手のお子ちゃまレベルだったんだな。
双岡がいい奴なのか、悪い奴なのかすら分らんかった。
タレント恐るべし。
そして、芸能界の闇、怖いです。今更だけど、普通の女の子に戻れないかな?
無理か。もう顔が売れてしまったもんな。
ああああ。
俺はさらに疲れて、鶏冠井さんの車でマンションまで送ってもらう間、ずっと寝ていた。
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