第15話 おっさん、気持ちを整理する
スーパーまでの数百メートルで三回ナンパされた。
治安がいいんじゃなかったのかよ!
まあ、無理やり連れていこうとするヤツじゃなかっただけ安全なのかもしれない。
ニホンゴムツカシイ、ゴメンナサイって片言で断ったらあっさり引いてくれた。
でも、
レジで並んでいるときも多くの視線を感じた。
世間に顔が売れた方が安全、という姉ちゃんの理屈もわかる。
芸能界デビューかあ。おっさんの体のときには、考えたこともなかったな。
帰りは荷物を持ってるせいかナンパされることもなく、マンションに戻ると、コンシェルジュが「お帰りなさいませ」と声を掛けてきた。
オーナーを覚えるのも大事な仕事なんだろうな。
コンシェルジュの頬がほのかに赤いのは、気にしないでおこう。
もう午後5時か。
リビングのテレビを点ける。ニュースバラエティがやっていた。
見るとはなしに見ていたら、最近株価のアップダウンが激しいという経済ニュース。
そのせいか、為替相場も異常な値動きがみられるとのこと。
特に仕手筋の動きが活発なようで、十分な警戒が必要だとコメントされていた。
それって、あれか……。あれだよな……。すまない世間の皆様。
(ディーゴ、何か感じます。ネットにフルダイブしてきます)
(え、何? ソフィ!)
テレビの角にアバターソフィが現れた。
『ノイマン王国に動きがあります。
「姉ちゃんが?」
カリブ海のノイマン王国の方か。一瞬異世界と繋がったのかと思ったけど、違うかった。
『米国のエージェントが動いています。ノイマン王国に移住? 国籍を手に入れてのんびり暮らそう?』
「はあ? 何それ?」
『ああ、なるほど。ノイマン王国にもう少し手を入れるって、こういうことでしたか』
「何がどうなってる?」
『ウソをホントに。無人島に人を集めて、数十人がのんびり暮らす国を現実に作ろうとされているようです』
「え、家とか、産業とかどうするつもりなんだ?」
『港を整備して、住宅などは船便で運ぶようですね。産業は観光と、投資を中心に金融を強化する方向です。ベーシックインカムで国民には生活保証しつつ、ノイマン中銀への投資を呼び掛けています』
「その住宅とかベーシックインカムとかは……」
『はい、例の1800万ドルから拠出されるようです』
俺は姉ちゃんに慌てて電話した。
『はい、何?
「はいじゃないよ、姉ちゃん何やってんの! ノイマン王国で!」
『よくわかったな。早いな。……ああ、ソフィだな』
「わかったなじゃないよ。また俺の金を勝手に……」
『ソフィが儲けた金だろ。もう少し形になったら伝えるつもりだったんだが、ま、いいや』
「いいやじゃないよ。どういうことなんだよ」
『あんたがデビューしたらノイマン王国まで取材に行くバカが必ず出てくるだろうからな。アリバイ工作だよ』
「マジか」
『もしかしたらあんたみたいな美少女が他にもいるかも? とかさ。あるいは悲劇の王室の再現ドラマとか。金になりそうな匂いに敏感なのが芸能界だ。先回りしとかないとな』
「なるほど……。でも、相当金が掛かるんじゃないか」
『そりゃ、掛かるだろうさ。でもその辺は先行投資として、割り切れ。そのうち儲けが出る』
「ほんとかよ」
『観光も、金融も、そのうちにな。それはあたしが保証するよ。まあみてな』
「わかった……。でも、こういうことは、出来たら先に相談してくれよ」
『善処する』
電話を切った。
姉ちゃん、昔から突っ走るというか、頭の回転が良すぎて俺がついていけないというか。
そうだな。そもそも、こんなことは俺が考えないといけない。
本来なら。
ソフィと生きていくと決めたんだから。
姉ちゃんや、鶏冠井さんに助けてもらってばかりじゃな。
ホントにダメおやじになってしまう。
何をビビってるんだ。一人異世界にやって来たソフィがどれだけ心細いか! ソフィは何もいわないけど!
俺がソフィを護る。そのくらいの気概をみせろ! 俺!
よーし、明日から頑張るぞ!
俺は自分に気合いを入れた。脳内で。
夜はレンチンしたシャケ弁当。
チューハイ飲みたいところだが、スーパーでは買えなかった。
そりゃそうだ。未成年には売ってくれないよ。
ドラマでも見るかな、と思ったけど、ソフィが眠そうだ。
昨日遅くまで読みすぎ!
姉ちゃんの本は置いてきた。明日、本屋に寄れたら、ソフィ用に何冊か買ってやろう。
で、風呂だ。
ソフィはかまわないと言ったが……。
ていうか、ソフィさん? ソフィ?
(くー、くー)
マジすか。またこのパターンすか!?
仕方あるまい。いつまでもこんなことで葛藤していてちゃ、先に進まない。
俺はやると決めたらやる男だ。
パジャマを下着と一緒に買ってあるのは確認済みだ。
洗濯もしないといけないし、明日から早い。余り遅くなっては支障がある。
マスターベッドルームに行き、リモコンで浴槽に給湯をはじめる。
適当に時間調整して、WICへ。
レースのワンピースを脱ぎ、ハンガーに掛ける。着替えは今んとこ4着しかないから、消臭スプレーして、そのまま吊るす。
ストッキングは脱いでネットに入れる。
ブラジャーとパンティ姿のソフィが大きな鏡に写っている。
(デカイ……)
改めてソフィを見るが、胴が細くて手足が長い。
そして圧倒的なボリュームを誇る胸。
そして女神なのか天使なのかはわからないけど、とにかく神秘的で美しい顔。
鏡の中からこっちを見つめられると、ドキドキする。
自分の顔なのに。
プラチナブランドのウェービーな髪も美貌に拍車をかける。
すごいなあ……。
そういえば、ソフィって恋人とか、好きな人とかいないのかな?
そんな話は今まで全く出てないが。
異世界の人、ソフィ以外は老騎士ギュルダンさんと後数名くらいに会っただけだが、そんなに美男というわけではなかった。
女性には会ってないので、美女揃いなのかどうかはわからない。
でもソフィが自分で
なんつっても王族だからな。
王様ともなれば美女侍らし放題だよね。
遺伝子的に、美男美女度が煮詰まって濃くなる気がする。
ソフィなら、彼氏がいても不思議じゃない。
王族だから、許嫁とかありそうな話だ。
政略結婚って、可哀想な気もするが、国家基盤の維持には欠かせない。
そもそも戦争月自体、国のためだもんなあ。
ソフィも国に命を捧げてるんだ。婚姻を王様に命ぜられたら、喜んで嫁に行くんだろう。
俺は何を妄想してるんだ?
俺はソフィのことが……。
ていうか、俺がソフィなんだ。二心同体なんだろ! おかしなことを考えてちゃダメだ!
俺はソフィに生かされているし、俺がソフィを護るんだ!
『一人より二人なら何倍も!』
さて。
クローゼットの大きな鏡はさすがに遠慮して、脱衣場へ。
ブラとパンティを思いきって脱ぎ、ネットに入れて、脱衣場にある洗濯機に放り込む。
姉ちゃんのハンカチもすでに洗濯機の中だ。
『ごく少量ボタン』を押して洗濯スタート。後は全自動におまかせ。
風呂に入る。円形のバスタブはたっぷりとお湯はり済み。
さっき買ってきたボディシャンプーとスポンジでまずは身体を洗う。
張りがある身体だ。お湯が弾ける。
バスト……。姉ちゃんが言ってたとおり、柔らかいのにしっかり押し返してくる。
なによりボリュームが圧倒的だ。いつまでも洗っていたくなるが、グッと我慢。はい次!
手が長いし、間接が柔らかいので背中も楽々洗える。
金髪さんなデリケート部分もきれいにする。
するよ! 俺は覚悟を決めんだから! 覚悟完了!!
そういえば脇は金髪さんがないな。そういう体質なのかも。
剃り剃りはしなくてもいいみたい。ちょっとホッとする。
身体を洗ったら今度は髪の毛。こっちはとにかく長くて多いので大変だった。
俺なんかハゲだから1分もかからず洗い終えてたのに。
コンディショナーも忘れずに。
バスタブに浸かる。サイドにスイッチ類がある。
強弱ジャグジー、調光、音楽。
試しに調光をいじったらバスルーム全体が暗く赤くなって、バスタブ内が紫に光りだした。
うーん、やっぱりそっち系ホテルみたいになるな。変な気分になるから止めておこう。
ジャグジー弱がいい感じだな。泡でソフィの体が隠れるのも、気が落ち着く。
初めての召喚の時は体を触ろうとしたら怒られたのにな。
あれから20日足らずだが。
ソフィも変わったよなあ。
まあ二人でこの体をシェアせざるを得ないし、気にしても仕方がないと思ってるんだろう。
俺も勝手に風呂に入ったりトイレに行ったりしてるし。
人間、異常な環境にだって慣れるもんだ。
割り切るところは割り切らないと。
眠いな。風呂で寝落ちしちゃいかん。適当なところで、上がろう。
◇◇◇
目が覚めたら、すでにソフィが起きて朝食の用意をしていた。
トーストとミルクティー。それにサラダ。
(早いな、ソフィ)
(おはようございます。ディーゴ。昨日早くに寝ちゃったんで、朝ごはんくらいはと)
(そうか、交互に体を使うのもありかもな。便利だ)
(そうですね。ちょうどパンが焼けました。一緒に食べましょう)
ソフィが食べて、俺も感覚共有する。
すでにソフィは私服に着替えていた。今日はブラウス、カーディガンに短いレザーパンツ。
昨日のレザージャケットと上下セットじゃないか? これ。
胸の感じからすると、ブラもちゃんと着けたようだな。
(実はあんまりのんびりできません。
(そうなんだ)
スマホに知らない番号の着信が合った。これが桂後水部長か。
番号を登録しつつ、
(ソフィ、知らない番号の電話は出ない方がいいぞ。録音メモにして、相手を確認しろよ)
(出る前に桂後水さんなのはわかりましたので、つい出ちゃいました。以後注意します)
あそうか、ネット無双だった。
(うん、そうしてくれ)
部長に電話番号を教えたのは鶏冠井さんだろうな。仕事のパートナーだし、それは構わないが。
歯磨きを終えて、髪型を整えていたら、インターホンが鳴った。
『女神さま、鶏冠井です。お迎えに上がりました!!』
迎えって、鶏冠井さん!?
編集の仕事は、ほっといていいの?
『今日から女神さまのマネージャーになりました! 改めてよろしくお願いします!!』
俺はまた盛大に滑った。脳内で。
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