バイバイ。わたしの王子様。
友坂 悠
第1話 薔薇の王子様。
「泣かないで。君は笑った顔の方がかわいいよ」
そう笑顔で語りかけてくれた王子様。
耳に残っているその声と、愛らしいお顔が目に焼き付いて。
金色の巻き毛に透き通る様な肌。クリンとした愛らしいブルーの瞳。睫毛がふわっと動くその瞬き一つひとつが天然色のままわたしの心に残っている。
子供の頃お父様に連れられて訪れたあの場所。
綺麗な薔薇が咲き誇るあの場所でわたしは兄とはぐれしゃがみこんで泣いていた。
迷路の様な薔薇の回廊で迷子になったわたし。
どんどん先に行ってしまった兄に置いていかれ途方に暮れていた所に現れたあの人。
そのかわいらしくて愛らしい、それでもって気品のあるその姿に、わたしは一目で恋に落ちていた。
「あーまた薔薇の王子様の事でも考えてるの? アリア」
ああ、もう。せっかくしあわせな夢見てたのにルイスったら。
「いいじゃない。それくらいしか楽しみないんだもん」
「まあそうやって白昼に夢が見られるのはいいことだけど掃除中に妄想の世界に浸ってるとまた叱られるよ?」
うう、まあ仕方がない。今のわたしはしがないメイド。ここ、アジャン様のお屋敷に雇われている身だ。たしかにお仕事中ぼーっとしてたらまずいかな。
「うん。ごめんルイス」
「ボクもアリアが叱られる所は見たくないからね。せめて休憩中にしようね夢みるのはさ」
そう言って立ち去るルイス。小さな執事服が似合ってきたかな。そんな後ろ姿を眺めながら感慨にふけって。
わたしたち、まだ14歳だし成人もまだなんだけどアジャン様のご厚意でこのお屋敷にお世話になっている。
お父様が龍に負け亡くなったとの報せが入った一年前、あっという間に押し寄せてきた有象無象に自宅は差し押さえられわたしと兄ルイスはおうちを追い出された。
孤児院に行くしか無いと途方に暮れていた所にに手を差し伸べてくれたのがリセル様。リセル・アジャン伯爵だった。
お父様とお友達だったと語るリセル様はお優しくて最初わたし達を自分の養子にとか言ってくださったんだけど、娘さんのクローディアちゃんのあの目を見てわたしもルイスも丁重にお断りした。
おとうさまを盗らないで、そうその目は強烈に主張していたしお情けで養子とかそういうのはわたしもルイスも望まなかったから。
それでも衣食住は保証してくれたしこのお屋敷で働かせてくれたので、それだけでも満足だ。
兄ルイスは執事見習い。賢いし要領もいいからいい執事になるんじゃないかな。
わたしはこうしてメイドさんしてる。
時々妄想の世界に浸りきってメイド長さんに怒られるけどね。
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