沼地

@shirayukiderera

沼地

沼地


あすこのうちのルルさんに、ドドくんったら振られたそうだ。沼の蛙の一匹が、そういう話を聞いてきた。おや、ドドくんが振られたか。ルルさんにはいろんな男の蛙らが、プロポーズしにいくのだが、そういうたんびにルルさんは、ぶっきらぼうにはねつけて、ゲロゲロと喉を鳴らしたもんだ。特にお熱だったドドくんも、過去も2度ほどプロポーズしたが、顔を二度ほどはたかれて、出ていきなさいと言われたそうだ。今回ふたたびチャレンジし、おなじ結果になったのだ。ドドくんはもちろんおいおい泣いたが、ルルさんもなぜだか少し泣いていたそうだ。

なぜプロポーズを断るのか、みんなは口々尋ねたが、首を振っているだけだった。他の蛙ならもうとっくに卵を産んでいるころだ。れ以来は、みんながルルさんを避けている。ルルさんもそれでよいらしく、ツンとして蓮の葉に座っている。

幾日か後のある夜の大雨の日、なんとモルフが現れた。モルフというのは共食いで、蛙が増えすぎたときに生まれて、仲間を食ってまわるのだ。モルフが手近の蛙をむんずと捕まえ、ガブリ一口で飲み込んだ。みんながピョンピョン逃げる中、なんとドドくんがつかまった。モルフが一口に平らげようとした刹那、もう一匹がモルフに襲いかかった。ルルさんだ。ルルさんはモルフを殴りつけ、眼を突いた。モルフは怒ってルルさんの手をかみちぎり、そのまま倒れたそうだ。ドドくんは涙ながらにお礼をいったが、ルルさんはまるで見向きもせず帰っていった。結局ルルさんは男が好きなのか女が好きなのか、どっちなんだ。倒れたはずのモルフはどこかへ消え失せた。

翌日、ルルさんは卵を産んでいた。産み終わると同時に、息絶えてしまった。ドドさんはどこにもいないし、どうなってるんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

沼地 @shirayukiderera

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る