第67話 七日呪いの母娘

 猫耳の中年男性がアーニャの名前を叫びながら、強く抱きしめる。

 髪の毛の色や、猫耳の色なんかが同じだし、アーニャもお父さんと呼んでいるから、親子で間違いないだろう。

 暫くすると、再会を喜んで居た二人が離れ、


「ところで、アーニャ。ここは一体どこなんだ? どうして父さんは、こんな所に居るんだ?」

「えっと、それは……」


 アーニャが困った様子で俺を見て来たので、これまでの事情を説明する事にした。


「つまり、アーニャがこの国へ飛ばされた所をリュージさんに助けてもらい、家族を探す為に旅をしていたと」

「うん。で、リュージさんが召喚魔法? で、お父さんを呼んでくれたみたいなの」

「そういう事です」


 俺が最初に異世界へ呼ばれた召喚魔法――サモン・コールを使って、アーニャの父親が召喚出来てしまった。

 つまり、アーニャの家族の名前を聞けば……


「サモン・コール。フェオドラ=スヴォロフ!」

「サモン・コール。ナターリヤ=スヴォロフ!」


 アーニャのお母さんと妹、綺麗なお姉さんと、可愛らしい少女が現れた。

 だが、どちらも顔色が悪い……というか土色で、地面に寝転んだ状態で現れている。


「お母さん! ナターリヤッ!」


 アーニャが嬉しそうに駆け寄ったものの、二人の様子を見て戸惑いだす。


「皆、手伝って! 急いで二人をクリニックの中へ!」


 嫌な予感がして、慌ててクリニックのベッドへ二人を寝かせると、


「診察!」


 お父さんの目の前で申し訳ないけれど、お母さんと妹さんの胸元に手を入れ、スキルを発動させた。


『診察Lv2

 状態:七日呪い(弱)』


『診察Lv2

 状態:瀕死。七日呪い(抵抗)』


 お母さんも妹さんもアーニャと同じ呪いに掛かっている上に、妹さんが瀕死って表示されてるっ!

 お父さんが何か言いたげだけど、そんなのに構っている暇は無い。

 急いで倉魔法を使用すると、クリア・ポーションを探しだして、二人に飲ませる。

 だが、お母さんは少しずつ飲んでくれているものの、妹さんはダメだ。薬を飲む力も無いらしい。


「アーニャ! この薬をお母さんに飲ませておいて!」

「はいっ! あの、ナターリヤは……?」

「俺が何とかするっ!」


 一刻一秒を争う状況なので、クリア・ポーションを口に含むと、俺の唇を妹さんの小さな唇に重ね、薬を無理矢理口の中へ押し込む。

 少しすると小さく喉が動き、暫くすると、妹さんが自ら舌を俺の口に入れて薬を求めてくるようになった。

 これなら、後は普通に飲んでくれるだろう。

 命の危機だからと咄嗟に動いたけれど、冷静になって考えてみると、今の状況は結構恥ずかしい。

 口移しで薬を飲ませた上に、今はその薬を求めるが故に、口の中で互いの舌が絡め合うようになってしまっている。

 早く離れなければと顔を離そうとしたのだが……何故か顔が動かない!?


「――んーっ!? むーっ!?」


 何故だ!? ……って、誰かが俺の頭を抑えつけている!?


「――んーんっ! んんんーっ!」

「ナターリヤ! リュージさんが困っているでしょ!」

「そ、そうだよっ! 元気になったのなら、お兄さんを離してよっ!」


 叫びにならない声をあげていると、アーニャとセシルの声が聞こえ、ようやく頭が動くようになった。

 改めて妹さんを見てみると、すっかり顔色が良くなった、アーニャを少しだけ幼くしたような美少女が、俺の顔を熱っぽい視線でジッと見つめてくる。

 一方で、お母さんも顔色が良くなっているので、一先ず確認だけさせてもらおう。


「えっと、お二人とも申し訳ないのですが、少しだけ触りますね。あの、変な事じゃなくて、医療行為なんです! その、俺は一応医者というか薬師みたいな感じなんで」

「リュージさんは、沢山患者さんを救ってきた人なの。私も手伝ってきたし、これは本当よ」


 アーニャのフォローもあって、再び胸に手を触れさせてもらい、診察スキルを使用すると、


『診察Lv2

 状態:病み上がり。呪い無効化(二十四時間)』


 以前にアーニャを治療した時と同じく、病み上がりに代わっていた。


「良かった。二人とも、呪いは解除されましたね」

「え? 呪い……ですか? 私は病気だって言われて、入院していたんですが」

「なるほど。お母さんの方は、呪いが少し弱まっていました。入院していたのも無意味では無かったのではないかと」


 入院して何らかの治療を受けていなければ、俺が召喚魔法を使う前に亡くなっていたかもしれない。

 一先ず、お母さんに推測した内容を伝えると、突然背中から誰かに抱きつかれる。


「さっきのキスでお兄ちゃんが治してくれたんだねっ! ありがとうっ! 本当にありがとうっ!」

「えっと、君は本当に危ない状態だったんだ。とにかく間に合って良かったよ」

「うん……ウチは病院に行っても、もう手の施しようが無いって言われて、一応薬みたいなのは飲まされていたんだけど……全く身体が苦しくないよっ!」


 そう言って、妹さんが背中から離れ、嬉しそうに俺の正面へ回ってきた。


「でも、その薬のおかげで、こうして間に合って、君を助ける事が出来たんだ」

「ナターリヤ……ウチの事は名前で呼んでねっ! お兄ちゃんっ!」


 その直後、俺の目の前に立った小柄なナターリヤが、そのまま背伸びをするようにして顔を近づけてきて、


「大好きっ!」

「あぁっ! お兄さんにっ!」

「おぉぉぉ……な、ナターリヤっ! と、父さんの目の前でぇぇぇ」


 今度は医療行為ではないキスをされてしまった。

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