第68話 英雄たちの家族

「ふふっ。ウチの騎士様、みーつけたっ! 格好良いし、ウチより少し年上で、命の恩人で……ウチ、お兄ちゃんと結婚する!」


 再び長いキスをされたかと思うと、そのままナターリヤが俺に抱きついてきた。

 女の子特有の柔らかさが俺を包み込み、優しい香りが鼻をくすぐってくる。

 ……って、いやいや。この子はアーニャの妹だし、何歳差だと思っているんだ。

 冷静になるんだ俺っ! さっきのは医療行為。医療行為なんだーっ!


「ナターリヤ……そういうのは、まだ早いだろ」

「まぁ! 貴方。ナターリヤはもう十八歳なんです。恋愛くらいして当然です!」

「お、お前まで……けど、せめて父さんの居ない所でしてくれないか?」


 ご両親が――特にお父さんが困惑する中、当のナターリヤは、


「ムリムリ。恋する乙女の心は誰にも止められないんだから!」


 とか言って、再び俺の胸に顔を埋めてきた。

 これ、どうしよう。というか、ナターリヤは見た目が中学生だけど、十八歳なのか。

 そういえば、アーニャも見た目に反して二十歳だって言っていたっけ。

 いや、でも十八歳はダメだろ。俺の半分くらいの年齢じゃないか!

 アーニャが俺の事を冷たい目で見ている……と思ったら、予想に反して優しい目で見つめている!?

 どうなっているんだ!? と思っていると、


「ちょ、ちょっと待ってよっ! お兄さんは……お兄さんは……ボクのお兄さんなんだもんっ!」

「って、セシル!? 何を!?」

「やだもん! お兄さんはボクと一緒に居るんだもん!」


 ナターリヤに対抗するようにして、何故かセシルまで俺に抱きついてきた。

 もう本当に訳が分からないんだけど。

 お父さん――ミハイルさんはミハイルさんで、今の状況にオロオロしているし……


「って、しまった! ミハイルさん。今、ここへ召喚しちゃって大丈夫でしたか!? 仲間と一緒に戦闘中だとかって事はありませんか!?」

「いや、それは大丈夫だ。今は魔王城の近くの森で休憩していた所だからな。だが、突然俺が居なくなった事で、混乱はしていそうだが」


 一先ず、今すぐ危険になる事は無いという話を聞いて安堵する。

 とりあえず、真面目な話をするからと、丁重にナターリヤとセシルへ説明し、一旦離れてもらって皆でリビングへ。

 アーニャがお茶を用意している間に、セシルとナターリヤが何も言わずに俺の両脇へ座り、対面に座ったミハイルさんが涙目になっている。

 と、それはさておき、本題へ。


「ところで、ミハイルさん。先程、奥さん――フェオドラさんとナターリヤさんを……」

「お兄ちゃん。ナターリヤって呼んで」

「……ナターリヤをここへ召喚した後、二人が苦しんで居た理由に心当たりはありませんか? 二人とも……いえ、アーニャを含めて三人とも呪いが掛けられていたんです。それも、かなり強力な呪いが」


 真面目なトーンだからか、ナターリヤが甘えるようにして呼び方だけを訂正するに留まってくれた。

 いや、本来は呼び方とかも、どうでも良いと思うんだけどさ。


「呪い……ですか。可能性があるとすれば、私たちが魔王の側近を倒したからですかね?」

「魔王の側近!?」

「えぇ。魔将軍とか呼ばれてたかな?」

「そんなのを倒すなんて、本当に凄い……ちょっと待ってください。という事は、ミハイルさんの家族だけでなく、一緒に魔将軍を倒した仲間の家族も同じ呪いに掛かっているのでは!?」

「な、何だって!?」


 それに気付いてからは、とにかくスピード勝負だった。

 ミハイルさんの二人の仲間の名前を聞いて召喚した後、混乱する二人に事情を説明して、また家族の名前を聞いて召喚して……薬を沢山用意しておいて本当に良かったよ。

 ただ、それぞれの仲間の家族――奥さんや娘さんの胸を触る時に、セシルとナターリヤがちょっと不機嫌そうにする理由が未だに分からないけど。

 それから、呪いを受けていた人たちの話を聞いてみると、やはりアーニャの様に知らない場所へ飛ばされ、呪いによって苦しんで居たそうだ。

 幸い皆誰かに助けてもらい、完治には至らないものの、呪いの効力が少しだけ弱まっていて、全員助ける事が出来たけど。

 とりあえず、大所帯になってどうしたものかと思っていると、


――英雄たちの家族を救った事により、貢献ポイントが付与されました――


 不意にいつもの声が頭に響く。

 そして、


――貢献ポイントが百ポイント付与されました。貢献ポイントが一定値を超えたので、城魔法の改修及び増築が行えます。リストから一つ選んでください――


 これまた、いつもの銀色の枠が現れ、実家の増改築リストが表示された。

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