第51話 作戦会議
「一先ず、教会に行って聖水を売ってもらえるか交渉ですかね」
「教会か。この身体だし、あそこには入った事がないから何とも言えないな」
アーニャとヴィックがアンデッド対策について意見を交わしている所で、トイレに行くと言ってFランクのバイタル・ポーションを取って来た俺は、背後からヴィックにポーションを掛けてみた。
だがポーションが床に落ちただけで何も起こらない。
Fランクのポーションだったから、効果が弱すぎたのだろうか。
だったらBランクならどうだろう。
倉魔法でBランクのバイタル・ポーションを取り出すと、ヴィックの頭の上からポーションを掛けてみた。
しかし結果は同じで、ただただ床が濡れただけだ。
「リュージ殿。先程から何をしているんだ?」
「え? いや、さっき言ったアンデッドにポーションが効くんじゃないかって検証をしてみようと思って」
「俺で試すの!? いや確かにアンデッドって言われれば、その通りだけどさ。けど、ハッキリ言って何の効果も無いぞ」
「おかしいな。俺が聞いた話によると、ポーションでアンデッドにダメージを与えられるんだけど」
「ガセネタを掴まされたのさ。教会で聖なる力を付与された聖水とかなら別だが、普通の回復薬じゃダメだな」
なるほど。残念ながら、某ファンタジーゲームと同じ効果は無かったのか。
……って、聖水か。確かにこれは効果がありそうだ。某クエストゲームでは敵を寄せ付けなくするし、振りかければアンデッドでなくてもダメージを与えられるもんな。メタルなモンスターとかにも。
「ところで、そもそも聖水って何なの?」
「そりゃあ、アレだろ? 教会に居る聖職者たちが神様の力? で、浄化した凄い水だろ? 詳しい事は知らないが」
「……浄化した水か。それって、薬草から作れるんじゃないか?」
「おいおい。いくらリュージ殿が薬師だとしても、聖水は無理じゃないのか? 回復薬は作れても、聖なる力はどうしようもないだろ」
「いや、そうなんだけど……その浄化っていうのが引っ掛かってさ。前にそういう効果がある薬を作った気がするんだけど」
「おいおい、それマジで言ってんのか? 治癒や浄化は教会の専売特許だろ。治癒はともかく、浄化まで作れてしまったら……」
「思い出したーっ!」
俺が突然大声を上げてしまったのでヴィックが驚いていたが、それはさて置き、俺は浄化の類のポーションを作った事がある。
クリア・ポーション――アーニャの呪いを解いたポーションだ。
呪いを解くって事は、回復や治癒とはまた違う浄化の効果だと思う。
早速調剤室へ行き、クリア・ポーションを三つ程作ってみた。Aランクが一つとBランクが二つ。
一先ずBランクのクリア・ポーションを持って皆の所へ。
「ヴィック。これは浄化効果があると思うんだけど、ちょっと試しても良い?」
「まぁ構わないぞ。流石に薬師が浄化効果のある薬を作れるとは思えないしな」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
クリア・ポーションを入れた小瓶の蓋を開け、ヴィックに垂らそうとした所で、
「うぉぉぉっ!」
薬がヴィックに付着する前に、避けられてしまった。
「ヴィック。避けたら効果の検証にならないよ?」
「悪かった。いや、もう触れなくても分かる。その薬はやべぇ! 俺が触れた瞬間、昇天させられちまうよ!」
「そうなの? じゃあ、アンデッド対策になると思って良い?」
「なる。絶対に効くよ。俺からしたら、やばい雰囲気がプンプンしやがる。おそらくリュージ殿たちには無害なんだろうが、即死級のやばさだ」
検証は出来なかったけど、ヴィックがここまで言うのなら、きっと大丈夫なのだろう。
流石に即死するって言われる薬をヴィックで試す訳にはいかないしね。
……あ、そういえば某ファンタジーゲームでも、聖水はアンデッドを一撃で倒せたな。
「よし。じゃあ、今からクリア・ポーションを量産しよう。セシルは悪いけど、材料となるクレイエルの葉を探してきてくれないか?」
「オッケー。じゃあ、早速行ってくるねー」
暇だったからか、セシルが軽い足取りで出て行き、
「アーニャは夕食の準備をお願い。俺はこれから調合作業をするし、セシルに取って来てもらった分も増えるだろうから、再挑戦は明日の朝にしよう」
「わ、私としては、暫く行かなくても……いえ、何でもないです」
アーニャがキッチンへと消えて行く。
「リュージ殿。俺は?」
「え? 特に無い……かな」
「えぇぇぇー。何かあるだろ? ほら、その……なんだ。じ、情報収集とか」
「じゃあ、情報収集で」
「……何の?」
「いや、ヴィックが情報収集って言ったから……」
ヴィックがしょぼーんとなっているが、幽霊で物に触れる事が出来ず、会話は俺たちとしか出来ない。
薬草探しはセシルの方が得意だろうし、ヴィックは料理や調合の知識があるとは思えないし、拗ねられても困るのだが。
「……そうだ! 今の俺にやるべき事が分かったぜ! はっはっは。明日の朝には戻る。待ってろよ!」
どうしたものかと考えていると、何か閃いたらしく、ヴィックが笑いながら家を出て行った。
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