第45話 貢献ポイント
乗合馬車が町から見えない場所まで移動し、ようやく聖者コールが聞こえなくなった。
ちゃんと診察料や薬代だって貰っているし、聖者だなんて呼ばれるような事はしていないんだけどな。
町の人たちが気を使ってくれたのか、それとも偶然なのか、御者のオジサンを除いて乗客は俺とセシルのアーニャの三人だけなので、やっと寛げる。
一先ず、もらった報酬を最初に貰った金貨の袋へ混ぜてしまおうと思い、手渡された小さな革袋からお金を取り出すと、
「あれ? 見た事が無い硬貨だ」
黒い硬貨が三枚入っていた。
白金貨や金貨、銀貨や銅貨くらいまでは良く見るけれど、これがその下の鉄貨という物だろうか。
日本円にすると、三十円くらいだ。
まぁ数日間とはいえ、町全体が混乱していたんだ。立てなおすのにお金が必要だろうし、そもそも俺は金儲けの為にやった訳じゃ無いしね。
とりあえず袋に入れておこうとした所で、
「ちょ、ちょっとリュージさん! そ、それ……黒金貨じゃないですかっ!」
アーニャが大きな声を上げる。
「知ってるの?」
「当然ですよっ! それは世界共通硬貨ですし……って、そうじゃなくて、黒金貨ですよ、黒金貨。普通の金貨百枚分の価値です」
「えっ!? これ、鉄貨じゃないの!? というか、一番高額なのって、白金貨じゃなかったの?」
「鉄貨がそんな立派な訳無いじゃないですか! 白金貨も十分高額ですけど、黒金貨はその十倍ですってば!」
という事は、黒金貨三枚で三百万円!?
いやいや、流石にこれは貰い過ぎだよっ!
返しに行こうかどうしようかとオロオロしていると、
「お兄さん。町を救った感謝の気持ちなんだから、返すのは失礼じゃないかなー?」
「そうですね。セシルさんの言う通りな気がします」
セシルが返さない方が良いと言い、アーニャも同意する。
けど、エルフの王女様であるセシルからすれば、三百万円って大した事がないかもしれないけれど、元々ブラック企業に居たサラリーマンとしては、一年身を粉にして働いて、ようやく貰える額なんだよ。
まぁでも、セシルの意見も理解出来るので、有り難く頂戴する事にした。
しかし、異世界転移初日に貰ったお金と、マジックポーションを売ったお金に、この黒金貨。そこから食費などを差し引いても、日本円換算で六百二十万円くらいある。
収入も沢山あったけれど、家賃というか、宿代が全く掛からないから支出も少ないから、このままだと溜まる一方ではないだろうか。
……あ、セシルたちの服を買うつもりだったのに、バタバタしていて忘れちゃってたよ。
次の町では、今度こそ服なんかを買いそろえなきゃ。
あとは、食料も買い足しておかないとね。
アーニャが上手くやり繰りしてくれているけれど、そろそろ冷蔵庫に入っている食材も少なくなってきているだろうし。
しかし冷蔵庫と言えば、あの城魔法の中は、本当にどうやって維持されて居るんだろう。電気みたいな動力源とか、水とかさ。
と、城魔法の事について考えていると、
――グレーグンの町の危機を救った事により、貢献ポイントが付与されました――
どこかで聞いた事のある声が頭の中で響く。
――貢献ポイントが百ポイント付与されました。貢献ポイントが一定値を超えたので、城魔法の改修及び増築が行えます。リストから一つ選んでください――
一方的に説明がなされた後、スキルでよく見かける銀色の枠が現れる。
『城魔法、改修及び増築リスト。
診察室 :部屋の拡大又は機能UP
調剤室 :部屋の拡大又は機能UP
待合室 :部屋の拡大又は機能UP
リビング:拡大又は機能UP
キッチン:拡大又は機能UP
お風呂 :拡大又は機能UP
3F :部屋数追加又は部屋の拡大又は機能UP
屋根裏 :増築』
「マジで!? セシル、アーニャ! ちょっとこれを見て!」
突然現れた城魔法のグレードアップに驚きながら、慌てて二人を呼ぶ。
部屋の拡大や追加は分かるけど、機能UPってなんだ? リビングの機能UPって、何がどうなるんだよっ!
「お兄さん、突然どうかしたの?」
「いや、セシル。これだよ、これ。見てよ」
「何を?」
「え? 何って、この銀色の……って、城魔法を使う俺にしか見えないのか?」
アーニャに同じ事を聞いてみても、「何か幻覚が見えているのですか?」と心配されてしまった。
仕方が無いので、突如聞こえてきた話を伝えてみると、
「あー、なるほどねー。噂には聞いた事があるよ。覚醒って呼ばれているらしくて、突然強力なスキルが使えるようになったりするんだってー」
「そうなんですねー。リュージさん、凄いです」
二人が喜び、俺を持ち上げてくれるんだけど、覚醒とは少し違う気がするのだが。
とはいえ、これ以上謎の声の話をしても、また幻覚とか言われてしまうので、一先ず三人で生活している城魔法の、どれをグレードアップさせるかを話し合う事にした。
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