第3章 異世界の称号

第44話 聖者が町にやってきた

 何とかレッドフロッグを倒した後、倉魔法で取り出したバイタル・ポーション(B)を飲み、泣きじゃくるセシルを連れて家の中へ。

 アーニャやララさんからも、無茶をし過ぎだと心配され、実家へ来ていた患者さんのように、クリニック側のベッドに寝かされてしまった。

 ポーションで回復したから大丈夫だと言ったのに、セシルが何かあるとダメだからと狭いベッドに潜り込んできて、眠かったのか、それとも安心したのか、すぐに寝息を立ててしまう。

 だがそのおかげで、俺も身動きが取れずに寝るしか出来なくなってしまい、初めて生きるか死ぬかという体験をしたにも関わらず、案外速く眠る事が出来た。


 そして、その翌朝。

 アーニャの馬術がいろいろと大変だった事を踏まえ、歩いて町へ戻る事にしたのだが、ララさんはギルドへ戻って今回の代金の清算をすると言うので、先に馬で帰っていった。

 平和な――魔物が出ても、セシルが秒で排除する――草原を歩き、蛙と戦っている時に吸い込まれていったヘビの話になる。


「ヘビは蛙の天敵だと言うし、俺は大量の蛙を食べようと川に来たけど、竜巻が発生しているから離れて様子見していたんじゃないかと思う」

「お兄さん。ヘビって、そんなに賢いのかなー?」

「ですが、私もリュージさんの意見に賛成です。患者さんの中には麻痺毒の症状の方も居られたんですよね? ヘビは麻痺毒を持つ種類が大半だと思いますし、その毒も川に流れていたのではないかと」


 真相は分からないが、いずれにせよセシルの強化版竜巻で殆ど吹き飛ばされただろうし、蛙共々解決と思って良いだろう。

 それから、お昼ご飯を食べたり、薬草を摘んだりしながら、俺たちは夕方前に町へ着く。


「リュージさん、こちらへ」


 町の門で待ってくれていたララさんに連れられ、商人ギルドへ行くと、


「先日、町の皆さんを診察してくださった診察代と、使ったポーションの代金です」


 そう言って、小さな革袋が渡された。

 俺自身がすっかり忘れていたけれど、使ったポーションを全てFランクという事にしておいたので、こんな物だろう。


「リュージさん。今日は是非町で泊まってくださいませんか? 町の人々がお礼を言いたいと話していましたので」

「いえ、ありがたい申し出なのですが、実は俺たちにも行かなければならない場所があるので、乗合馬車で次の町へ行こうかと」

「そうですか……プランC! そういえば、まだ王都とは乗合馬車が復活していないのに、森を抜けて来られたんですよね」


 なんだろう。宿泊を断ると、プランC? とよく分からない事をララさんが叫び、再び世間話となる。

 出来ればそろそろ乗合馬車の停留所へ移動したいのだが、うだうだと思い出話みたいなのが続く。

 何だか、ララさんが俺たちを引き止めようとしている様にも見えた所で、


「……では、準備が整ったようですので、参りましょう。乗合馬車の停留所までご案内いたします」


 何の準備だ? と思いつつ、ララさんに促されてギルドを出ると、


「聖者様! ありがとうございます!」

「聖者様! また、この町へ来てくださいね!」

「聖者様! 貴方様の旅の無事をお祈りいたします!」


 大勢の町の人――主に女性がギルドから長い列を作って、叫んで居た。


「ララさん、これは?」

「本当は宿でおもてなしをしたかったのですが、急ぎの旅だという事でしたので、無理に引き止める事は出来ないかと思いまして」

「まさか、俺たちのために町の人を集めたんですか?」

「いえ。これからリュージさんが町を出るとお伝えしただけです。すると、リュージさんに助けてもらった人たちがせめてお礼を伝えたいと言い、こういう事になりました」


 ララさん。気持ちは嬉しいんだけど、出来れば普通に町を出たかったよ。


「……ちなみに、みんなが叫んで居る聖者様って?」

「もちろんリュージさんの事ですよ。町全体に流行っていた症状を治し、その原因となる魔物を退治してくださったのですから当然です」

「でも、町の人が魔物を倒した話をどうして知っているの?」

「それはもちろん、私が皆に言って回りましたから。リュージさんはこの町の救世主で、まるで聖者のようなお方だと」


 って、聖者なんて呼ばれて居るのはララさんのせいかっ!

 恥ずかしいからマジで勘弁して欲しい。

 乗合馬車に乗ってからも聖者コールが鳴りやまず、とはいえ隠れる訳にもいかず、引きつった笑顔で町を後にする事となった。

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